「アカシアの通る道」(2011アルゼンチンスペイン)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 長距離トラックの運転手ルベンは、無愛想で寡黙な男。上司に頼まれて、パラグアイからアルゼンチンのブエノスアイレスまで、赤ちゃんを連れたシングルマザーのハシンタをトラックに乗せてやることになる。当初は煩わしさを感じるルベンだったが、旅を続けるうちに徐々にハシンタと赤ん坊に心を開いていくようになる。
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(レビュー) 孤独なトラック運転手とシングルマザーの交流を描いた心温まるロードムービー。
大きな事件は特に起こらず、セリフも極端に少なく、BGMにいたっては全然かからない。非常に淡々とした作りで、ほとんどトラックの車内シーンだけで構成された地味な映画だが、繊細な演出が奏功し最後まで面白く観ることができた。
ルベンは寡黙で不愛想な中年男で、日本人で例えるなら高倉健だろうか。一見すると怖そうに見えるが、本当は気の優しい男だ。
例えば、たばこの煙で赤ん坊が泣きだすと、ルベンは気を使って窓からタバコを捨てる。時々、赤ん坊に投げかける優しい眼差しにも彼の人の良さが感じられた。
物語は終始淡々と進むが、中盤でちょっとだけ謎めいたシーンが出てきて、そこが印象に残った。
それは、ルベンがプレゼントを妹宅に届けるシーンである。実は、この一連のシーンは、ハシシタの目線でしか描かれていない。したがって、ルベンは妹の家だと言っているが、本当にそうなのかどうかは疑わしい。
というのも、その手前のシーンでハシンタはルベンの息子と思われる写真を見つけているからだ。もしかしたら、妹ではなく別れた妻の家だったのではないだろうか?
ルベンがハシシタに幾ばくかの好意を抱いていたことは明らかだ。
例えば、後半のレストランのシーンで、ハシンタが他の男性客と楽しそうに会話をしているのを見てルベンは急に不機嫌になった。決して言葉には出さないが、おそらく嫉妬したのだろう。
このように考えると、おそらくルベンは既婚者であることをハシシタに知られたくなかったのではないかと想像できる。だから彼は前妻ではなく妹だと嘘をついたのではないだろうか。
本作はラストも良い。ハシンタが「いい旅だったわ」とルベンに告げて別れるが、これまでの旅は正にこの一言に尽きるように思う。果たして、その後二人は再会できたのだろうか…?そんな余韻を残しつつ、映画はしめやかに締めくくられている。
監督、脚本は本作が初の長編映画製作となる新人監督らしい。
繊細な演出、確かな人物観察眼には類まれない才能を感じた。ミニマルな分、演出に大崩れは見当たらず実に堅実である。
尚、本作でカンヌ国際映画祭のカメラドール(新人賞)を受賞しているが、それも納得の出来栄えである。