「トラベラー」(1974イラン)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) サッカー好きの10歳の少年ガッセムはテヘランで開かれるサッカーの試合を観たくて、両親や友人などに嘘をついて旅費を捻出するために奔走する。
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(レビュー) 学校の問題児がサッカーの試合を見るために、嘘をついたり、他人を騙したりしながら旅費を稼いでいく姿をユーモアを交えて描いた児童映画。
監督・脚本はA・キアロスタミ。キアロスタミと言えば、子供を主人公に据えた「友だちのうちはどこ?」(1987イラン)、「そして人生はつづく」(1992イラン)、「オリーブの林をぬけて」(1994イラン)というジグザグ三部作が有名である。これによってその作家性を完全に決定づけた感があるが、本作はそれより以前に撮られた初期時代の作品である。
ジグザグ三部作における子供たちに注がれる眼差しにはどこか温かみが感じられるが、今作もそこは共通している。主人公ガッセムをはじめ、彼の同級生、近所に住む子供たちの姿が活き活きと活写されている。
あまりにも子供たちの演技が自然体なので、まるでドキュメンタリーを見ているかのような感覚に捉われた。
特に最も生々しさを感じたシーンは、ガッセムが自宅にあった古いカメラを使って町の人々を写真に撮っていくシーンである。ファインダーの向こう側に立つ人々はおそらく皆、素人の人々であろう。彼らの素顔が虚構というフィルターを取り払い、この「物語」の真実味を一段引き上げているような気がした。
一方、ストーリー自体は実にシンプルである。
しかし、クライマックスにおけるスリリングな演出は中々堂に入っていて、最後まで目が離せなかった。それまでさんざん悪さをしてきたガッセムに天罰が下った…と考えると何とも皮肉的な結末であるが、大人になるための教訓ということであれば何だか微笑ましく見れる。
もう一つ、本作で印象に残ったのはカメラワークである。カメラのアイラインは終始、子供の目線から上にはいかない。これによって、観ている方としては、ガッセムの置かれてる状況や心理に限りなく近づくことができるように演出が図られている。
例えば、クライマックスのガッセムの焦燥感などは手に取るように分かり、思わず見てて応援したくなってしまった。キアロスタミの演出の妙が感じられる。