「顔たち、ところどころ」(2017仏)
ジャンルドキュメンタリー
(あらすじ) 映画監督のアニエス・ヴァルダが、写真家青年JRと一緒に旅をしながら巨大ポートレートを壁に貼っていくドキュメンタリー。
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(レビュー) 映画監督のアニエス・ヴァルダと写真家のJRがトラックに乗ってフランス各地を巡りながら、出会った人々の顔を写真に撮り、それを引き延ばして壁や物に貼っていく。その様子を追いかけたドキュメンタリー。内容はいたってシンプルなのだが、そこから見えてくるフランスの歴史、社会背景が中々興味深く見れる逸品である。
彼らの被写体となるのは、寂れた炭鉱町に居座り続ける中年女性、巨大な牧場を切り盛りする農夫、化学工場で働く社員たち等、実に多彩だ。そして、皆が特別な誰かではない、ごくありふれた普通の人々である。そんな市井に根差したスケッチがフランスの現在と過去、文化を少しずつ炙り出していく。
また、本作はアニエスとJRの交友を描く、いわゆるロードムービー的な楽しみ方もできる。彼らは祖母と孫ほども年が離れているが、お互いに芸術家同士ということで、まるで親友のように惹かれあっていく。その温もりに満ちた関係性が微笑ましく観れた。
時には、どこにどんな写真を貼るかで意見を対立させることもあるが、夫々の感性の食い違いが見えてきて、これまた面白い。アニエスは映画監督になる前は写真家としても活躍していたので、彼女には彼女なりのこだわりがあるのだろう。
最も印象に残ったのは、海岸に転がる戦時中のトーチカのシーンだった。彼らはそこに巨大なポートレートを貼るのだが、満潮になればその写真は海に流されて消えてしまう。しかし、それが分かっていても、彼らはその一瞬のためだけにこの巨大なオブジェを創り上げていくのだ。すべては芸術のためである。
映画は延々と二人のアート活動を追いかけていくことで進行していくが、クライマックスでちょっとしたドラマが待ち受けている。それはアニエスにとっては因縁の相手とも言えるJ=L・ゴダールとの邂逅である。このシークエンスは、アニエスとゴダール、そしてジャック・ドゥミの関係を知っているとグッと来てしまう。
尚、アニエスは旅の途中で徐々に視力を失っていったそうである。そんな中でこの映画を撮り続けていたのか…と思うと壮絶である。本作が公開された2年後に彼女はこの世を去ったが、ゴダールに会いたいと願った彼女の胸中は如何なるものだったろう。観終わった後に切なくさせられた。