「ザ・トライブ」(2014ウクライナ)
ジャンルサスペンス・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 少年はろうあ者の寄宿学校に入学した。そこで犯罪などに手を染める不良グループ(トライブ)に目を付けられ手荒い洗礼を受ける。しかし、弱音を吐かなかった彼は、その根性を認められ仲間として受け入れられた。こうして彼は様々な犯罪に加わっていくようになるのだが…。
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(レビュー) 全編手話のみによって表現された特異なスタイルの青春映画。
字幕がないので何をしているのか分からないシーンもあるが、ドラマ自体はシンプルなので理解しやすい映画である。
おそらく敢えて字幕を排して、ろうあ者の無音の世界を観客に疑似体験させようという狙いでやっているのであろう。こうしたアイディアは映画文法的には実に斬新で、この実験精神は大いに評価したい。
物語は、主人公の少年がひたすら暴力の世界に落ちぶれていく…という凄惨なものである。彼がどうして今の境遇に陥ってしまったのか?そのあたりのバックボーンが余り語られていないので、感情移入するというよりも、彼を見守るような感覚で観た。
少年はやがてグループのリーダーの愛人と関係を持ってしまう。よくある話と言えばそれまでだが、これが彼を破滅の道へと追い込んでいくようになる。
そして、ラストでは取り返しのつかない悲劇が起こり絶望的な結末を迎える。リアルに考えればありえない描写という言い方もできるが、全てを吹き飛ばすくらいの”救いのなさ”に圧倒されてしまった。
圧倒されたと言えば、リーダーの愛人が中絶するシーンも、直視するのがためらわれるほどの凄惨さで言葉が出なかった。
今作にはこのような過激なシーンがいくつか登場してくる。言葉を発しない分、彼らの暴力とセックスには野生の獣を思わせるような迫力がある。それが一層画面を鮮烈にしている。
ところで、本作を観て寄宿学校の教師たちは一体なにをしているのか?という疑問が湧いた。荒廃した生徒たちを野放しにしているのが不思議でならない。この学校はもはや手の施しようがないところまできているということだろうか?
演出はドキュメンタリータッチを貫き、基本的にロングテイクが徹底されている。それが奏功し、映画は非常に生々しいものとなっている。
また、出演している子供たちは、皆本物のろうあ者ということで、それも作品にリアリティをもたらしていると思った。
監督はどういう演出をしたのか気になる所だ。おそらく手話の通訳を通してキャストに演出を施したのだと思うが、そう考えるとこの監督はかなり困難なことに挑戦したということになる。まさしく前代未聞の映画である。