「STOP」(2016韓国日)
ジャンル社会派・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 若い夫婦サブとミキは、東日本大震災による福島第一原発の事故で東京への移住を決意した。ある日、二人の元に政府の役人が現われて、身重のミキに堕胎を勧める。
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(レビュー) 東日本大震災による放射能汚染の被害にあった夫婦が強迫観念に苛まれながら徐々に精神的に追い詰められていく社会派人間ドラマ。
製作、監督、脚本、撮影、編集、録音は、先日惜しまれながらも新型コロナウィルスで亡くなった韓国映画界の鬼才キム・ギドク。
これまでもセンセーショナルな内容の作品を撮ってきた作家である。その彼がどうしても撮りたかったということで完全自主製作で撮り上げたのが本作である。
東日本大震災の原発事故についての映画は日本でも幾つか作られたが、海外の監督がこれを題材に撮ったというのは余りないのではないだろうか。しかも、世界三大映画祭ですべて受賞しているという世界的な作家である彼が撮るというのだから注目も相当高いものと思われる。
しかしながら、結論から言うと作品としてかなり稚拙である。もちろん低予算の自主製作というハンデはある。しかし、ストーリーにリアリティが感じられないのは致命的である。
他にも、セリフを噛んだり、編集の整合性が無かったり、作品のクオリティ的に過去作と比べて明らかに見劣りする。
キャストに対する演技指導もどこまで徹底されたのだろうか?サブ役の俳優は時折、手を使ったオーバーアクトをするが、アメリカ人ならまだしも日本人が日常生活でこんなモーションをとるだろうか?
政府の役人だと名乗る男も見るからに怪しい風貌で、それを安易に信用してしまうミキも無知すぎる。ネットで調べればいくらでも情報収集できるのにこの夫婦はどうしてそれをしなかったのか?
ギドクの演出は基本的に生々しさを前面に出す反面、ストーリー自体は多分に不条理劇であったりする。そこがギドク映画の面白い所であるのだが、こと本作のような現実問題を題材にした場合、リアリティとの折り合いという点でその作家性は相性が悪い。
確かに彼が伝えたいメッセージというのは理解できる。反原発、人間の愚かさ、夫婦の絆といったテーマを、慣れない異国の地で描いたことは大したものだと思う。しかし、リアリティを失した本作では、そのテーマも素直に心に響いてこなかった、といのが正直な感想である。
今回ばかりは、流石に失敗作と言うほかない。
尚、内容的に問題なのか、それとも作品クオリティ的な問題なのかは分からないが、今現在ソフト化はされていないようである。