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スパイの妻<劇場版>

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「スパイの妻<劇場版>」(2020日)star4.gif
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス・ジャンル戦争
(あらすじ)
 1940年、神戸で貿易会社を営む夫・優作は妻・聡子と何不自由ない暮らしを送っていた。ある日、仕事で満州に渡った優作は、そこで衝撃的な国家機密を目にしてしまう。正義感に突き動かされた彼は、その事実を世界に公表しようと秘密裏に準備を進めていく。そんな中、聡子の幼なじみである憲兵隊の泰治は優作への疑いを強めていくようになる。
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(レビュー)
 スパイ容疑をかけられた夫に複雑な感情を抱いていく妻の姿をスリリングに描いたサスペンス映画。

 2020年6月にNHKのBS8Kで放送されたTVドラマの劇場版である。
 自分はTVドラマ版を見たことがなく今回が初見である。wikiによると、スクリーンサイズや色調を新たにしたということらしい。上映時間は変わりないので、おそらく構成自体はそのままなのだろう。

 監督、共同脚本は「クリーピー 偽りの殺人」(2016日)「岸辺の旅」(2015日)「リアル~完全なる首長竜の日~」(2013日)等の黒沢清。彼は本作でヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。
 尚、脚本には「ハッピアワー」(2015日)「親密さ」(2012日)「PASSION」(2008日)の濱口竜介が参加している。

 黒沢清作品と言えば、ジャンルの垣根を超えた謎(?)演出を繰り出すことで、これまでに何度か足元をすくわれた思いをしてきたが、今回は意外にも最後までストレートなサスペンス映画になっている。語弊はあるかもしれないが、普通の監督が撮ったような、そんな手触り感で、黒沢清独特のクセがあまり感じられなかった。

 これは勝手な想像だが、脚本に濱口竜介が加わっているからなのかもしれない。彼の名前がクレジットの一番上に表記されていたので余計にそう感じてしまうのだが、今回は基本的に彼を中心に脚本づくりをしたのではないだろうか。

 物語は、優作と聡子の夫婦関係を中心にした国家機密の陰謀を巡る壮大なスケールのドラマとなっている。

 まず、この夫婦の抜き差しならぬ関係が面白く観れた。
 聡子は良妻賢母を絵にかいたような女性である。しかし、幼馴染で憲兵でもある泰治の忠告から、優作がスパイではないかと疑うようになる。そして、他の女と渡米してしまうのではないか…と嫉妬に駆られ、彼女は”ある行動”に出るのだ。この辺りの心情の推移が実に丁寧に描かれていて感心させられた。
 そして、優作を裏切ったかと思ったら、実はそうではなかったという”仕掛け”も見事である。それは夫への愛を貫くための”仕掛け”であるが、ここまで冷酷になれるのか…と恐ろしさを覚えた。

 一方で、そんな聡子に対する優作の対応も実に冷酷極まりない。彼の人柄については、会社の余興で撮った自主製作”フィルム”の中で雄弁に語られれている。どこまでも非情でクールだ。
 そして、ある程度予想はできたが、この”フィルム”を使った終盤のサスペンスはすこぶる痛快であった。

 このように、この夫婦は常に騙し合いをしている。そこが自分にはたまらなく魅力的で、次に彼らはどんな行動に出るのか?と目が離せなかった。

 また、本作は戦時下のドラマであるが、この設定選定にも作り手側の思惑が何となく読み取れた。
 権力による弾圧、挙国一致体制の恐怖は、どこか現代にも通じるメッセージとして受け止められる。それは他の映画作家、例えば故・大林宣彦や塚本晋也などが社会の風潮に危機感を覚えて映画作りをしてきたことと同調する部分である。
 黒沢清は今までこうしたメッセージを表立ってしてこなかったように思うが、もしかしたら今作をきっかけに創作活動に変化が訪れるかもしれない。
 最も印象的だったのは、終盤の聡子のセリフである。
 「私は狂っていません。でもこの国ではそれが狂っているということなんです。」
 実に痛烈な一言である。

 残念だったのは、戦時下の背景描写に限界を感じてしまったことだろうか…。このあたりは、元々が予算の少ないTVドラマということで目を瞑るしかない。例えば、空襲を音のみで表現するという所には邦画の限界を感じてしまった。

 キャスト陣では、聡子役の蒼井優が印象に残った。危機的状況に追い込まれる中、夫の愛を我が物にしたいという独占欲から、まるでハネムーンよろしく嬉々とし始める所にどこか狂気が滲み出ている。その姿は可笑しくもあり恐ろしくもあった。

[ 2020/11/25 09:59 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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