「スイス・アーミー・マン」(2016スウェーデン米)
ジャンルファンタジー・ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 無人島で遭難した青年ハンクは孤独に耐えかねて死のうとした。そこに男の死体が流れ着いてくる。その死体からはガスが吹き出しており、またがってみるとまるでジェットスキーのように勢いよく海面を滑り出した。その後も死体は様々な働きでハンクのサバイバルを救っていく。2人の間に奇妙な友情が芽生えていくようになる。
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(レビュー) 孤独な青年と死体が無人島でサバイバルを繰り広げていく奇想天外なヒューマン・コメディ。
キワモノ的な匂いをプンプンさせるタイトルだが、意外にもしっかりとしたドラマが語られている。確かにシュールでブラックな一面はあるが、ラストにはしみじみとさせられた。また、終盤のどんでん返しも面白く観ることができた。ちょっとクセの強い作品なので万人受けはしないだろうが、個人的には中々の傑作のように思う。
何と言っても、ハンクとメニーの奇妙な友情関係が面白い。
ハンクは内向的な性格でコミュニケーション下手で、どこか純真さも漂わるナイーブな青年である。そんな彼に唯一の友達ができる。それがある時突然目の前に現れた男の死体メニーである。
このメニーはただの死体ではない。例えば、おならでジェットスキーになったり、口から飲み水を際限なく出したり、股間のアレがコンパス代わりになったり等々、ハンクのサバイバルを助ける万能機能を備えた死体なのである。その活躍ぶりはさしずめスイス製アーミーナイフといったところか。おそらくタイトルの「スイス・アーミー・マン」はそこから来ているのだろう。
普通に考えればこんなことあるはずがないと分かるのだが、映画の登場人物はハンクとメニーの二人だけで、必然的に視座がハンクに固定されている。そのため全てが、さも<現実>のように描写されている。観ている方としては、その<現実>がいつ<妄想>に転換するのか?その一点で興味深く観れる。この徹底した視座の固定が物語に1本の芯を与えている。
しかして、オチはなるほどと思えるものだった。
普通であればハンクは<妄想>を捨て<現実>に目を向けてハッピーエンドとなるところを、本作は敢えてそうしていない。これには一抹の哀愁を感じてしまった。
監督、脚本はダニエル・シャイナートとダニエル・クワンという二人組のコンビである。ミュージック・クリップを撮ってきた人たちらしく、本作が長編映画初監督らしい。元々がそうい仕事をしてきたということもあり、時折見せる映像演出には目を見張るものがあった。
特に、ハンクが憧れの女性サラとの恋慕を再現するシーンは白眉である。幻想的で非常に美しく撮られている。また、ハンクをメニーに演じさせ、ハンク自身は女装してサラの役を演じるという捻じれた倒錯的疑似恋愛が、独特のブロマンス風味を加味し、何ともシュールなシーンとなっている。
また、死体を玩具のように扱うという設定からしてそうなのだが、かなり毒を利かせたブラック・ユーモアも垣間見れる。好き嫌いは別れるかもしれないが、このグロテスクなセンスも中々面白かった。
キャストでは、ハンクを演じたポール・ダノ、メニーを演じたダニエル・ラドクリフ、夫々に好演している。ラドクリフは死体役なのでほとんど横たわっているだけなのだが、それでも「ハリー・ポッター」シリーズのイメージを壊すには十分のインパクトがある。