「ブロンソン」(2008英)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルアクション
(あらすじ) 郵便局を襲ったマイケル・ピーターソンは、懲役7年の刑を言い渡され刑務所に収監された。出所後、リングネーム“チャールズ・ブロンソン”名義でアンダーグラウンドのボクサーとして小遣い稼ぎを始める。しかし、宝石強盗をしたため再び逮捕されてしまう。マイケルは刑務所内でも暴力や問題行動を次々と起こしていき…。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 実在する犯罪者の半生を過激なバイオレンスシーンとスタイリッシュな映像で描いた実録映画。
現実に世の中には相手にしたくないというようなタイプの人がいるが、マイケルのような人がいたら決して関わりたくないものである。それくらい劇中で描かれるマイケル像はヤバイ。おそらく映画としてかなり誇張している面は多分にあると想像する。ここまで暴力とセックスに過激に傾倒した演出が頻出すると、逆にフィクションのように思えてしまうくらいだった。
まず、映画の冒頭。マイケルが劇場の支配人よろしく着飾って登場して自慢げに自分の半生を語りだす。このシーンにおける色彩設計が過剰にカラフルである。恣意的にリアリティを排した映像設計が、これから始まるマイケルの半生をどこか作り物のように見せている。
また、バイオレンスシーンにおける映像編集はアクション映画的ケレンに満ちており、それが行き過ぎて逆にコメディチックに映る場面さえある。これも意図してフィクショナルにしているのだろう。
監督、共同脚本はニコラス・ウィンディング・レフン。後に
「ドライヴ」(2011米)を撮り世界的に注目を浴びるが、すでに本作からも独特の映像美学、過剰なバイオレンス演出が確認できる。
また、スピーディーな語り口も快調で、最初のテンションのまま最後まで一気に突っ走っていったところは見事である。
もっとも、ドラマ自体にそれほど新味はない。何かを成し遂げた偉人でもなければ、世紀の大罪を犯した極悪人でもなく、言ってしまえば普通の犯罪人なので、それほど大層なエピソードがあるはずはない。物語的にはただひたすらマイケルが暴力の世界に身を落とすだけで、その合間に母親や恋人の関係が挿入され、ちょっとだけドラマの起伏が工夫されているだけである。もしかしたらレフンの中でも、マイケルの内面を描くというより、暴力その物が持つ滑稽さ、愚かさ、無為さを描きたかっただけなのかもしれない。
尚、一部で本作のことを”21世紀の「時計じかけのオレンジ」”と評している人もいるらしいが、内容についてはそこまでの衝撃性はない。確かにスタイリッシュな映像演出、過激なバイオレンス演出に関しては、キューブリックを意識しているかなという印象を持ったが、さすがに両作品を並べるのはちょっと違うような気がした。
キャストではマイケルを演じたトム・ハーディーがインパクト大である。鍛え上げた肉体でこの役をビジュアル面から見事に造形している。更に、ただ凶暴なだけではなく、どこか頭のネジの緩んだコミカルさを加味しながらキャラクターに幅を持たせたところは見事である。全裸で刑務所内で大暴れするシーンは正に体を張った怪演と言って良いだろう。