「アンビュランス」(1990米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 漫画家のジョシュアは、街で金髪の美女に一目惚れしてナンパをする。ところが、突然彼女は持病で倒れて救急車で運ばれて行ってしまった。気になった彼は近くの病院に問い合わせてみると、どこにも運ばれていないということが分かる。警察に相談してもまともに取り合ってもらえず、彼は自力で捜査を始めるのだが…。
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(レビュー) 正体不明の救急車による誘拐事件を描いたサスペンス作品。
監督・脚本がB級映画の職人作家ラリー・コーエンということで、如何にもお手軽、お気楽なエンターテインメント作品に仕上がっている。しかし、この人のアイディアは相変わらず秀逸で、ワンアイディアでここまで映画を作ってしまうのだから大した才能である。過去には電話ボックスに閉じ込められた男の悪戦苦闘を描いた「フォーン・ブース」(2002米)や、携帯電話を使って誘拐犯と対峙する「セルラー」(2004米)といった快作を手掛けている。いずれもB級的な作りだが、アイディアがずば抜けた良作である。
そんな彼が撮った本作は、殺人救急車というアイディアがインパクト大である。被害者はどこに運ばれるのか?そして何の目的で誘拐されるのか?主人公ジョシュアの捜査でそれが解明されていくのだが、非常に興味が惹きつけられた。
もっとも、ストーリー自体は今見ても全然通用すると思うが、ビジュアル面がどうにも古臭さを感じてしまう。ファッションや音楽が80年代を引きずっていて、そこにはやはり時代を感じてしまう。
また、ジョシュアの漫画家という設定が今一つ活かしきれていないのも残念だった。見せ場となるクラマックスのアクションシーンが野暮ったいのも難である。このあたりはラリー・コーエンの監督としての限界が感じられる。やはり彼は監督よりも脚本家としての仕事の方が向いているような気がした。
キャストではジョシュアを演じたエリック・ロバーツのトッポイ感じが、良くも悪くも作品全体を決定づけている。当時は二枚目俳優としてブイブイと言わせていた頃であり、その軽薄な感じが作品の緩さに反映されている。おそらくキャストが変わればまた違った作風になったのではないかと思う。
周囲のサブキャラはそれぞれに個性的で面白かった。中でも警部補役を演じたジェームズ・アール・ジョーンズがピカ一の存在感である。「スター・ウォーズ」シリーズのダース・ベイダーの声でもお馴染みだが、顔出しでの出演も中々に良い。
ちなみに、ジョシュアが働くスタジオのシーンでマーベルの創始者スタン・リーが登場してくる。今でこそマーベル・コミックと言えば世界を席巻する大スタジオだが、当時はこのようなB級映画にも積極的に参画していた頃である。これまた時代だろう。