「ジャガーノート」(1974英)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) “ジャガーノート”を名乗る男から豪華客船ブリタニック号に爆弾を仕掛けたという脅迫状が届く。早速、警察が犯人捜索を開始する一方、ファロン率いる爆弾処理班が嵐の海へと飛び立つ。
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(レビュー) 豪華客船に仕掛けられた爆弾を巡って繰り広げられるパニック・サスペンス映画。
物語は大きく二つに分けられる。一つは警察が”ジャガーノート”を名乗る犯人を捜査していく地上パート。もう一つは、特殊部隊が爆弾解除に苦闘する船上パートである。
どちらも面白く観れるが、個人的には後者の方により面白みを感じた。
爆弾処理をここまで緊張感タップリに描いた映画もそうそうないだろう。最近では
「ハート・ロッカー」(2008米)や
「ヒトラーの忘れもの」(2015デンマーク独)といった作品があるが、それに引けを取らないくらいの手に汗握る緊張感が味わえる。クライマックスの青と赤どちらのコードを切るか?というお約束的な展開は、本作が元祖と言われている。
実際、このクライマックスには目が離せなかった。警察に逮捕された犯人が青を切れと白状するのだが、それを信用していいのかどうかでファロンは迷う。犯人が改心していればそれは本当だろう。しかし、もし最後の悪あがきだとしたらそれは嘘ということになる。天国と地獄の分かれ目。正に究極の選択である。
監督はR・レスター。SFからコメディ、ミュージカルなど幅広い映画を撮ってきた職人監督である。本作でもその作家性は十分に発揮され、安定した力量を見せている。
脚本も面白く作られていると思った。ジャガーノートの身顕しを最後まで引っ張る構成も良いし、何より各キャラクターが個性的に描き分けられているのが良い。
とりわけ、主人公ファロンのプロフェッショナルな仕事振りは頼もしく感じられた。イギリス人らしいシニカルなジョークを飛ばしたり、相棒想いな一面があったり、幅を持たせた人物像に仕立てられている。
他に、地上で犯人探しに奔走する実直な警察部長、多額の賠償金をどうするかで苦悩する船会社の重役等、事件関係者の心理を細かく描いている点にも感心させられた。
一方で、本作には船上を舞台にしたグランドホテル形式のドラマパートも用意されている。
こちらはアメリカに住む夫に会いに行く母子や、船長と恋仲にあるマダム、移民労働者の客室乗務員、陽気な給仕といった個性的な面々が揃っている。流石にすべてを描き切るには尺的に無理があったが、彼らのやり取りにはユーモアが感じられ、緊迫感が持続するドラマに一服の清涼剤的効果をもたらしている点は評価したい。
特に、爆弾が仕掛けられたことを知った乗客を少しでもリラックスさせようとする給仕が良い味を出していた。物影で弱音を漏らすのだが本心では彼も恐ろしかったのだろう…。
キャストでは、ファロンを演じたR・ハリスが印象に残った。他に、A・ホプキンス、イアン・ホルム、オマー・シャリフといった巧者が揃い映画全体を脇から引き締めている。