「リード・マイ・リップス」(2001仏)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 土地開発会社で働く35歳の独身女性カルラ。難聴の彼女は常に孤独感を味わっていた。ある日、そんな彼女にポールという青年がアシスタントに就く。彼は刑務所を出所したばかりで保護観察中の身だった。二人は一緒に過ごすうちに次第に惹かれあっていく。
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(レビュー) 孤独な中年女性がヤクザな青年と一緒に犯罪に手を染めていくクライム・サスペンス作品。
しっかりとしたドラマ、リアリティのあるキャラクタリゼーション、スリリングな演出、キャストの好演等、映画らしい醍醐味がすべて揃った快作である。
監督、脚本はジャック・オーディアール。
「ディーパンの闘い」(2015仏)、
「君と歩く世界」(2012仏ベルギー)、
「預言者」(2009仏)、
「真夜中のピアニスト」(2005仏)等、数々の作品を撮ってきたベテラン監督である。主にサスペンス・タッチを得意とする作家で、本作はそんな氏の資質が良く出た初期時代の傑作となっている。
物語は序盤から軽快に展開されている。カルラの孤独感、難聴によるストレスといったキャラクターも手際よく紹介されている。対するポールも前科者ということで何かしら裏がありそうで魅力的に造形されている。
そんな憐れみを誘うカルラだが、実は腹黒い一面を持っていて、これがドラマの原動力となっている所が面白い。彼女は出世を目論んで同僚を失墜させるべく、ポールに盗みを依頼するのだ。孤独で憐れな中年女性の悪だくみである。ポールは渋々これを引き受けて二人は共犯関係になっていく。
話は当然これだけでは終わらない。ポールがかつてのヤクザ仲間に誘われて再び悪に手を染めることになるのだが、ここで今度はカルラに仕事を手伝えと要求する。更に共犯関係を深めていくカルラとポール。やがて二人は後戻りできない破滅の道を転がり落ちて行くことになる。
凡庸な映画であれば、ここで二人はすぐさま肉体関係に及んで愛に溺れてしまうところだろう。しかし、本作はそこも安易に流されない。彼らは必要以上にお互いのプライベートに立ち入らず、極めてクールな関係に終始し、それどころか相手を出し抜こうとさえするのだ。二人のこの微妙な距離感が非常にスリリングで面白い。
オーディアールの演出も冴えわたっている。カルラは難聴ということで読唇術が得意である。それを披露するクライマックスは緊迫感溢れるタッチで表現されていて見入ってしまった。まるでヒッチコックの「裏窓」(1954米)よろしく”覗き見”によるサスペンスがハラハラドキドキの展開を上手に創り出している。また、このクライマックスはタイトルの「リード・マイ・リップス」の意味を反芻させるという意味においても秀逸なシーンとなっている。
覗き見ということで言えば、カルラがクローゼットに隠れるシーンもスリリングで手に汗握るシーンだった。定番と言えば定番であるが、そつのないオーディアールの堅実な演出力が伺える。
本作で唯一不満に残ったのは、保護司のエピソードであろうか…。妻に逃げられて孤独な暮らしを送っている中年男なのだが、メインのドラマの舞台袖で時折、挿話される。これがどうにもドラマを停滞させてしまっていただけない。そこまで描く必要性があるとは思えなかった。しかも、ラストシーンでもこの保護司は登場してくる。ドラマの邪魔になっているだけで不要に思えた。