「ローサは密告された」(2016フィリピン)
ジャンルサスペンス・ジャンル社会派
(あらすじ) マニラのスラム街で雑貨店を営むローサは、家計を支えるために少量の麻薬売買をしていた。ある時、警察のガサ入れが入り夫と一緒に逮捕されてしまう。警察署に連行されたローサたちは、多額の見逃し料を要求されるのだが…。
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(レビュー) 腐敗したフィリピン警察の実情を、ある一家の目線を通して描いた社会派サスペンス・ドラマ。
どこの社会でもこうした権力の腐敗はあるものだが、フィリピンも然り。勝手なイメージだが、こうした腐敗が日常化してるイメージがある。
以前観た映画で
「エリート・スクワッド」(2007ブラジル)という作品があるが、それに近い印象を持った。そこで警察の腐敗は蔓延しており、ブラジルもやはりそういうイメージが強い国である。
だからと言って、本作が既視感のある映画かと言えばさにあらず。権力の腐敗、ドラッグの蔓延といった映画の素材そのものは決して新鮮ではないものの、フィリピンのマニラが舞台というだけで独特の風土、空気感が感じられる映画になっていて興味深く観ることができた。
それにしても、ローサたちを逮捕した警官たち何と醜悪なことよ…。ローサたちに釈放する代わりに多額の見逃し料を要求し、押収した麻薬を横流しして酒を飲んでいるのだからヒドイ有様である。
確かに麻薬を売りさばいていたことは犯罪である。しかし、ローサたちが裁かれて、自分たちは堂々と悪行に手を染めてもお咎めなしというのが理不尽極まりない。
物語は厳しい取り調べを受けるローサと夫を描く一方で、両親の保釈金の金策に奔走する子供たちの姿も描かれる。何とも悲惨極まりない状況で見てて辛かった。
しかも、彼らは母を密告した犯人を見つけるのだが、その相手が彼らがよく知る身近な人物だったというのもやりきれない。貧しいこの町では誰もが密告者になり得るということなのだろう。絶望的である。
しかして、ローサの運命はどうなるのか?と思って観ていくと、最後にこれまた皮肉的なオチで締めくくられる。生きていくためには仕方がないとはいえ、これもまた貧しい社会に生きる者たちの実態なのだろう。
映像は手持ちカメラによるドキュメンタリータッチが徹底されており、強引な取り調べのシーンや雑多なドヤ街の喧騒などをワンカットワンシーンでパワフルに切り取っている。生々しい映像がドラマへの没入感を見事に誘導している。
娯楽性は少ない作品であるが、マニラの底辺社会の実態を赤裸々に表した所に十分の見応えを感じる作品だった。