「無言歌」(2010香港仏ベルギー)
ジャンル社会派・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1956年、ソ連のスターリン批判を教訓に、中国は党に対する批判を歓迎する“百花斉放百家争鳴”を提唱した。しかしほどなく方針を一転させ、批判した知識人たちは“右派分子”として辺境の再教育収容所へ送られてしまう。彼らは劣悪な環境の中で過酷な労働を強いられるのだが…。
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(レビュー) 政治的スローガンに翻弄された知識人たちの非情な運命を冷徹な眼差しで描いた社会派ドラマ。
様々なドキュメンタリー映画で世界を震撼させてきたワン・ビン監督が、初めて劇映画に挑戦した作品である。
とはいっても、映像スタイルはこれまで通り、ロングテイクを主体としたドキュメンタリータッチで、劇映画というよりほとんどドキュメンタリーを見ているような感覚を持った。
撮影前にかなりリサーチとしたということなので、物語にも十分の説得力と真実味が感じられた。完全にフィクションではなく、おそらく本当にこんなことがあったのだろう…と思えるリアリティが感じられる。
収容所での生活環境は非常に劣悪である。この辺りの描写は、以前観た同監督作
「収容病棟」(2013香港仏日)を想起させるものがある。
収容された者は昼間は屋外で肉体労働を強いられ、夜になると暗い洞穴の中で汚い布にくるまって雑魚寝をして就寝する。配られる食料はわずかな白がゆのみで、そのため裏では物々交換で食べ物が取引されている。栄養失調で倒れる者、飢餓で死んでいく者。中には死体の肉を食う者までいる(直接の表現はないがセリフで語られていた)。
最も強烈だったのは、ある男が別の男の嘔吐物の中から豆を拾って食べるシーンだった。これはさすがに観ててきつかった。
このような惨状がひたすらドライに切り取られていくので、観てて余り気持ちの良い映画ではない。確実に人を選ぶ映画だろう。しかし、この鬼気迫る描写の数々には目を離せない迫力が感じられた。
物語は中盤で一つ大きな節目が訪れる。ある労働者の妻が訪ねてきて、施設側に夫に合わせて欲しいと懇願するのだ。以降は彼女を中心とした話になっていく。
結局、彼女は面会が叶わず、やがて悲劇的な光景を目の当たりにすることになるのだが、これには実にやるせない気持ちにさせられた。この理不尽極まりない顛末には心を痛めるしかない。改めてワン・ビン監督の揺らぎなきジャーナリスティックな姿勢に圧倒されてしまう。