「ラブレス」(2017ロシア仏独ベルギー)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 一流企業で働くボリスと美容サロンを経営するジェーニャは離婚協議中の夫婦。2人にはすでに恋人がいて、新しい生活をスタートさせる上で息子のアレクセイはお荷物でしかなかった。そんなある日、学校からの連絡でアレクセイが行方不明になったことが分かる。
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(レビュー) 行方不明になった息子を捜索する夫婦の軋轢をシリアスに綴った作品。
終始重苦しいトーンに支配された映画である。行方不明になったアレクセイはどこにいるのか?事故や事件に巻き込まれてしまったのか?両親であるボリスとジェーニャ、警察やボランティア捜索隊の奔走する姿が延々と描かれるドラマである。
いわゆる娯楽映画であれば、最後にアレクセイが見つかって不仲だった夫婦も復縁してハッピーエンドとなろう。しかし、本作はラストもそんな安易な形では終わらない。引っ張るだけ引っ張って、最後に観客を突き放して終わるのだ。観終わった後には苦々しい鑑賞感が残る。観た人それぞれが考えてくれ…ということなのだろう。
そもそも本作はアレクセイの捜索を描きながら、実はそこに着目して展開される映画ではない。残された夫婦の確執と葛藤をメインとしたドラマとなっている。言わばアレクセイの失踪はそこを描くための”きっかけ”でしかなく、テーマは崩壊した夫婦関係、人間のエゴそのものなのである。
ラストは流れる川を捉えた映像で終わっている。ここから想像するに、アレクセイはこの川に流されてしまったのかもしれない。更に言えば、これは事故ではなく自殺だった可能性もある。醜い両親の軋轢に嫌気がさして自らの命を絶ち現実に別れを告げたのかもしれない…。
いずれにせよ身勝手で自分のことしか考えない両親が、この幼い少年を殺した。そんな風に思えて、見終わった後には何ともやるせない気持ちにさせられた。
監督、共同脚本は「父、帰る」(2003ロシア)、
「裁かれるは善人のみ」(2014ロシア)のアンドレイ・ズビャギンツェフ。冷徹な眼差しでしっかりとドラマを見据えた作劇は今回も健在で、目をそらすことができない重厚さに溢れている。
ただ、今回はドラマがシンプルな分、物語がやや水っぽい印象がした。アレクセイ捜査のサスペンス、ボリスとジェーニャの私生活。主にこの二つを交互に描く構成になっているが、前者の緊張感を後者が途絶えさせてしまっている感じがする。そのため、どうしても途中で興味が削がれてしまう。夫婦の冷え切った関係を描く描写をほどほどにして、アレクセイの捜査をメインに据えて展開させたほうが良かったのではないだろうか。
それにしても、ボリスとジェーニャの関係はどうしてここまで破綻してしまったのだろうか?映画を観ても彼らの過去が一切分からないため、そこは大いなる謎だった。そもそもの原因は何だったのか?どちらの浮気が先だったのか?それが気になった。
しかし、逆に言うと、そこを伏せたのもズビャンギンツェフ監督の計算なのかもしれない。
幼いアレクセイからすれば、両親が自分を捨てた理由など大した問題ではない。ただ失った愛を取り戻したいだけなのである。
つまり、アレクセイの視点に立って、ボリスとジェーニャの理不尽な行動を考えて欲しい…というメッセージなのだろう。
ズビャンギンツェフ監督の徹底した客観的語り口には改めて脱帽するしかない。