「サムサッカー」(2005米)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 17歳の少年ジャスティンは未だに親指を吸う癖が治らず悩んでいた。行きつけの歯医者のペリー先生は、そんなジャスティンの悩みを解消するため催眠術を施した。おかげで癖は治ったものの、不安を解消する術を失ったジャスティンは次第に自分の行動をコントロールできなくなってしまう。ついにジャスティンはADHD(注意欠陥多動性障害)と診断され抗うつ剤を処方されるのだが…。
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(レビュー) 親指を吸う癖が治らない少年の心の成長を周囲の人間模様を交えながら描いた青春映画。
抗うつ剤を処方されたジャスティンが突然流ちょうに言葉を操りながらトントン拍子にディベート大会で優勝してしまうクダリに、やや安易さを覚えたが、そこ以外は非常にリアリティのあるドラマで真摯に見ることができた。
親指を吸う癖は精神医学的に幼児性の表れとも言われている。ジャスティンは歯科医のペリーの奇妙な催眠術のおかげでその癖が収まるのだが、コトはこれだけでは終わらず、ADHDと診断され徐々におかしなテンションになっていくのだ。そうこうしていくうちに大きなトラブルに発展し、やがて彼はあるがままの自分を受け入れていくことで精神的に一回り大きく成長していくことになる。青春談としては至極まっとうにまとめられており、気持ちよく観ることができた。
ジャスティンの周囲に集う人々の物語も中々面白い。
母親やガールフレンド、かかりつけの歯科医ペリーといったサブキャラがジャスティンの成長を促す上で重要な役回りを担っている。
母親は少し変わった性格の女性で、よく言えばざっくばらんとした性格、悪く言えば独善的な所がある。母親と言うより年の差が離れた姉のような存在で、このサバサバしたところが今時の母親という感じがした。
ガールフレンドとの関係は後半で大きな変化が訪れる。ジャスティンも思春期の男子である。それなりに性欲は持っているが、彼女はこれを”意外な理由”で袖に振ってしまう。早い話が失恋してしまうのだが、ゆくゆくこれがジャスティンの自律の原動力になっていく。
そして、ジャスティンのかかりつけの歯科医ペリーも大変ユニークなキャラである。キアヌ・リーヴスが演じているのだが、いかにも彼らしい自由人スタイルな風貌で、しかも奇妙な心理学に凝っているという少々変わったキャラクターである。彼に関しては、メインのドラマとは別に独立したサブドラマが用意されており、前半と後半とでは全くキャラクターに変化するところに注目したい。
そして、何と言っても忘れられないのが、終盤に出会う元ヤク中の男である。彼の”自分語り”がジャスティンの鬱屈した心情を解放したことは間違いない。
他に、ジャスティンと今一つ打ち解けられない父親、生意気な弟といった人物たちが周囲に集う。
こうした多彩な人物を追った群像劇風な楽しみ方ができるのも本作の妙味だ。
監督、脚本はテレビCMなどで活躍していたマイク・ミルズ。本作は彼の長年映画デビュー作である。
軽快なテンポで紡ぐシークエンスやスタイリッシュな映像編集に、いかにも元CMディレクターらしい資質が感じられた。その一方で、ガールフレンドとの間に流れる気まずい空気感など、丁寧に拾い上げじっくりと見せるような演出も中々上手い。全体的にそつなく作られていると思った。
キャストでは、ジャスティンを演じたルー・テイラー・ブッチの佇まいが印象に残った。大人と子供の中間を繊細に演じ、本作で見事にベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞している。しかしながら、この後が今一つパッとしないのが残念である。自分が観た作品では
「死霊のはらわた」(2015米)のメインキャストの一人くらいだろうか。もっと活躍しても良いと思うので今後に期待。