「母よ、」(2015伊仏)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 映画監督のマルゲリータは恋人と別れたばかりで、反抗期の娘ともすれ違い気味だった。そこに新作映画の主演俳優バリーがアメリカからやってくる。互いに我の強い2人は現場で衝突してばかりで撮影は思うように進まなかった。更に、入院中の母の病状悪化の連絡が入り、医者から余命わずかと宣告され…。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 病気の母を抱える映画監督の葛藤をユーモアを交えて描いたヒューマンドラマ。
監督、共同脚本はイタリアの名匠ナンニ・モレッティ。前作
「ローマ法王の休日」(2011伊)の撮影中に、実際に本作のマルゲリータのように病気の母を抱えていたそうである。本作はその経験から生まれたということで、ある意味で私的な映画と言うことができるかもしれない。
ただ、本作はモレッティ自身は出演していない。彼は時々自分の映画に役者として出ることがあるので、どうせなら本人が監督役を演じればよかったのではないかと思うのだが、さすがにそこまで前面に出るのは気がとがめたのか。あるいは、私的な映画ゆえ、客観的な視点から演出に集中しようとしたのか。
いずれにせよ、このマルゲリータは映画監督としては余り才能がないように見えてしまった。現場をまともに仕切ることができないし、アメリカからやってきた有名俳優バリーとすぐに喧嘩になってしまうし、映画監督ならもっと人の使い方をうまくやらないとダメだろう。そのため、映画を観てて少しモヤモヤとした気分になってしまった。
また、全体の物語も決してうまく構成されておらず、やや散漫である。そのため観てて興味があまり持てなかった。
本作のメインはマルゲリータが母を看取るというドラマである。その傍らで撮影現場の苦労が同時並行で描かれている。公私にわたってマルゲリータの日々を描写する格好となっていて、これではメインである母親との関係に迫るドラマに集中できない。
モレッティ自身が過去の経験から本作を撮ったことは分かる。映画監督だって一人の人間であるから、プライベートで問題を抱えれば創作に様々な影響を及ぼし上手くいかないことだってある。そうした作家としての苦悩を描きたかったのだろう。
しかし、個人的には撮影現場のゴタゴタなどどうでもよく、メインのドラマの方をしっかり見せて欲しかった、というのが正直な感想である。
ただ、マルゲリータと母の過去のわだかまり、死の床に伏してようやくそのわだかまりから解放されるというクダリは、予想の範疇ではあるが中々感動的に描けていると思った。このあたりのツボを押さえ方は、さすがにベテラン監督の上手さである。