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フレンチアルプスでおきたこと

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「フレンチアルプスで起きたこと」(2014スウェーデンデンマーク仏ノルウェー)
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ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 フレンチアルプスの高級リゾートにバカンスにやって来たスウェーデン一家の4人。和気あいあいとした時間を過ごすが、テラスのレストランで昼食をとっていた時に雪崩が起こり大パニックに陥る。父トマスは家族そっちのけで一人で逃げてしまったことで、それまでの楽しいバカンスは一変してしまう。

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(レビュー)
 かつては父親の理想のイメージと言えば、家族を守る一家の大黒柱、子供たちの憧れのヒーローだったように思う。しかし、実際には奥さんの方が強かったり、子供たちから馬鹿にされたり、理想の父親像とは程遠いお父さんが世にたくさんいる。それもまた現実であろう。
 本作はそんな父親像のイメージを痛烈に皮肉りながら、父権の失墜、夫婦関係の危機をスリリングに、時にユーモアを交えて描いた作品である。

 監督、脚本はリューベン・オストルンド。本作の次に撮られた「ザ・スクウェア 思いやりの聖域」(2017スウェーデン独仏デンマーク)を先に観てしまったが、独特のユーモアと緊張感あふれる長回しはすでに今作からも見て取れる。

 まず、何と言ってもトマスの追い込まれ方が観てて非常に痛々しかった。自分は逃げてないと言い張るが、明らかにそれは間違いで、映像には彼がひとりで一目散に逃げているのがはっきりと映っている。「カメラは衝撃の瞬間をとらえた!」じゃないが、それは観客も観て知っているので、トマスの嘘にまみれた虚勢は、ただただ痛々しいばかりだった。明らかに問題の根源はトマスにある。

 一方で、妻エバにも原因がないかと言えばそうではないように思う。彼女は事あるごとにトマスを責め立てる。たとえ人前であろうと夫の不甲斐なさを暴露するのだから、よほど頭に来たのだろう。しかし、これはさすがにどうだろう…と思った。トマスだって一応男である。プライドだってあるだろうに、それを考えないで人前で恥をかかせるのだから、エバの方にも問題はあるだろう。

 一方で、子供たちの反応も興味深く観れた。憐れトマスは子供たちから無視され、完全に父親としての威厳を失ってしまう。ただ、両親の不仲を察知すると、長男はいくばくか父親に対して同情を見せていくようになる。このあたりのかすかな心理変化は、セリフの端々や繊細な描写から想像できる。

 映画は中盤から別のカップルが登場して、トマスたちは彼らと交流していくようになる。いわゆるドラマをかき回すキーマンになっていくのだが、特に男のマッツの方はトマスの立場を変えるという意味では重要なキャラクターとなっている。彼は元来マッチョ思考で、そういう意味では臆病なトマスとは正反対である。そして、女房は旦那にたてをつくな…という典型的な男性優位主義者である。トマスがエバに非難されると、彼はトマスを擁護する。

 こうしてトマスの立場はマッツたちとの関わり合いの中で徐々に盛り返していくことになる。果たして最後はどうなるのか?全く予想がつかず最後まで興味深く観ることができた。

 しかして、訪れるラストが中々意味深で、このあたりもオストルンド監督らしいと思った。
 ここでトマスは長男と手を繋いで歩き、エバは長女を預けて一人で歩いている。今一つハッピーエンドと断定できない不穏な雰囲気が漂っている。この後にまだ何か起こるのではないか?と思わせる意味深なエンディングで印象に残った。  

 また、「ザ・スクエア~」のチンパンジーのシーンのような、シュールで人を食ったような演出も見られた。それは夜のスキー場で裸で乱痴気騒ぎをする男たちの集団である。トマスは彼らの輪に入りもみくちゃにされながら一緒に騒ぐのだが、今作で最もバカバカしくパワフルでユーモアにあふれたシーンで印象に残った。おそらくは男性のマッチョイズムを暗喩しているのだろう。
[ 2021/04/13 00:36 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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