「愛を弾く女」(1992仏)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 才能あふれるバイオリニスト、カミーユは楽器工房を経営するマクシムと恋仲にあった。ある時、マクシムから彼の親友である楽器製作者ステファンを紹介される。その熱い視線にカミーユは恋愛感情を確信するのだが…。
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(レビュー) バイオリニストと楽器製作者、楽器工房を経営するパトロン。3者の愛憎乱れる関係をスリリングな会話に乗せて描いた大人の恋愛映画。
非常にシンプルな作りで、主だった3人の男女の恋のかけひきが淡々と描かれるのみである。事件らしい事件はこれといって起こらないので退屈する人もいるかもしれない。しかし、内に秘めたる感情を押し殺して恋の駆け引きに暮れる彼らの姿は、いかにもフランス映画らしい芳醇な味わいをもたらす。
監督・共同脚本はクロード・ソーテ。「夕なぎ」(1972仏伊西独)や「ギャルソン!」(1983仏)等、味わいのある恋愛映画を撮らせたら実に上手い監督で、今回もその手腕は見事に発揮されていると思った。
本作では、カミーユとステファンの関係が付かず離れずの微妙な距離感で描かれている。決して情熱的な不倫ドラマに至らない所がかえって物語をスリリングなものにしてる。
二人の関係は、リハーサルにおけるバイオリンの調律から始まり、レコーディングスタジオ、雨の日のカフェへと、仕事から徐々にプライベート空間へ”はみ出して”いく構成が面白い。恋愛感情の変遷が実に丁寧に筆致されており見ごたえを感じた。
また、容易に肉体関係に踏み出すことができない所に”もどかしさ”も感じられ、非常に上品にまとめられている。カミーユはステファンに積極的にアプローチをかけるのだが、ステファンは一歩引いてしまうのだ。
実は、ステファンには”ある秘密”があり、そのために魅力的で才能あふれるカミーユになびかないのだ。その秘密とは意外な”第三者”の存在である。
後半からこの意外な”第三者”が登場して、この不倫関係は悲恋へと変わっていく。
キャストでは、何と言っても寡黙なステファンを演じたD・オートゥイユの抑制を利かせた演技が光っていた。終始うつむき加減な悩める中年男を渋く演じている。その心中を察すると切なくさせられた。
カミーユ役を演じたE・ベアールも素晴らしい演技を披露している。特に、バイオリンの演奏シーンが印象に残った。本人が演奏しているのだろうか?劣情に駆られない繊細な演技が徹底されている。