「すぎ去りし日の…」(1970仏)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 建築家ピエールが自動車事故で瀕死の重傷を負った。彼は自分が辿って来た過去を走馬灯のように思い起こす。恋人、前妻、息子、親友との思い出の数々。そして出せなかった1通の手紙…。
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(レビュー) 重傷を負った中年男の走馬灯を巧みな回想形式で綴ったビターな恋愛ドラマ。
ドラマ的にはありきたりな不倫劇といった感じだが、過去のフラッシュバックで解き明かされるピエールのバックストーリーに惹きつけられながら最後まで面白く観ることができた。また、恋人に宛てた手紙が最後にどうなるのかといったサスペンスも面白く追いかけることができた。90分弱というコンパクトな上映時間も大変観やすくてよい。
監督、共同脚本は「ボルサリーノ」(1970仏)で脚本を務めたクロード・ソーテ。元々は脚本家だったこともあり、本作における現在と過去を交錯させた巧みなシナリオ構成は見事である。今わの際の主人公のモノローグ、主観映像を駆使しながら彼の心情に肉薄した脚本は秀逸である。
シュールな演出も要所で奇妙な味わいを出していて面白い。
例えば、事故の瞬間はハイスピード撮影によるスローモーションで描かれている。ピエールの表情はもちろん、事故の関係者一人一人の姿まで克明に切り取られており、悲惨な事故にもかかわらずどこかユーモラスさを醸し出している。
ピエールが恋人と結婚式を挙げる夢想シーンもシュールで魅了された。祝宴の列席をピエールの主観映像で表現し、左側の席(愛する人々の姿)から右側の席(事故現場の人々の姿)にパンさせながら”夢想”から”現実”に引き戻す演出の妙が素晴らしい。
ラストの締めくくり方も意味深で色々と想像を働かせたくなった。
ピエールからの手紙には何が記されていたのか?前妻はその手紙を見てどう思ったのか?そして、どういう気持ちでそれを破り捨てたのか?セリフを排した描写に見応えを感じる。
個人的解釈としては、前妻は亡き夫のもとに駆けつける恋人の姿を目撃した瞬間、ある確信にたどり着いたのだと思う。夫は自分ではなく恋人を選んだのだ…という確信に。
仮に手紙の内容が自分に対する謝罪や求愛だったとしても、それを投函できなかったということ自体が問題であり、やはり夫の愛は失われていた…ということを彼女は自ずと知ったのではないだろうか。
このラストのクダリは実にドラマチックで、色々と考えさせられた。