「婚約者の友人」(2016仏独)
ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 戦後間もない1919年のドイツ。戦争で婚約者のフランツを亡くした悲しみから立ち直れずにいたアンナは、ある日フランツの墓の前で泣いているドイツ人の男性と出会う。アドリアンと名乗るその青年は、フランツと戦前のパリで知り合ったと明かす。フランツとの思い出話を聞きながら、アンナは次第に彼との交友を重ねていくのだが…。
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(レビュー) 戦争で婚約者を亡くした女性とその婚約者の友人を名乗る男性の関係をスリリングに綴ったミステリーロマンス。
エルンスト・ルビッチ監督による1932年の作品を、フランソワ・オゾン監督がリメイクした作品である。オリジナル版は未見なので比較できないが、中々面白く観ることができた。
前半はアドリアンのミステリアスな造形に惹かれた。果たして彼が言ってることは本当なのか?という疑いの目で見ることで、まるでヒッチコックの「疑惑の影」(1943米)のようなスリリングさが味わえた。
しかして、映画中盤でアドリアン自身の口から真実が語られその正体が判明するのだが、これにはやるせない思いにさせられた。戦争が引き起こした残酷な運命の皮肉に胸を締め付けられてしまう。ルビッチのオリジナル版は反戦ドラマと言われているらしいが、そのテーマはこの部分から存分に感じられた。
後半は、アンナとアドリアンのロマンスを追いかける作劇に傾倒していく。アンナの心の揺れが、これまたスリリングに描写されていて引き込まれた。すべてを語らせないオゾンの演出も堂に入っていて、実に味わい深いメロドラマになっている。
ラストは実に不遇な終わり方で締めくくられている。アンナの胸中を察すれば、これは実にいたたまれない結末である。おそらく彼女は今後もウソをつき続けることになるのだろう。ただ、そのウソはいずれ自分自身を苦しめることになるはずである。
ウソというものはその時は救いとなるが、バレた時には必ず本人や周囲に深い悲しみをもたらすことになる。そのことは正に本作のアドリアンが証明してみせてくれている。彼もウソによって救われようとしたが、良心の呵責からウソをつきとおすことができなかった。そして真実を打ち明けたことで、より深い悲しみに苦しめられることになってしまった。
いずれアンナもそうなるのかもしれない。しかし、それでも彼女はウソをつくことを選択した。”未来”よりも”今”の苦しみから逃れるためにウソをついたのだ。
映像はモノクロとカラーを巧みに使い分けながら、非常に美しく撮られている。
全体的に沈んだドラマなのでモノクロの映像は上手くマッチしていると思った。
一方、回想シーンや登場人物がウソをついている時、人物の心理状態によっては、映像が時々カラーに切り替わっている。画面にメリハリの付けるという意味では、センスのある演出に思えた。