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ノマドランド

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「ノマドランド」(2020米)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 リーマンショックの影響で長年住み慣れた我が家を失った中年女性ファーンは、亡き夫との思い出を詰め込んだキャンピングカーで車上生活を始める。短期バイトの職を転々としながらアリゾナの砂漠で行われるノマドの集会に参加した彼女は、そこで様々な人々と出会う。
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(レビュー)
 ノマド(遊牧民)の生活を送る中年女性の日常を淡々と綴ったヒューマンドラマ。

 ファーンを演じたF・マクドーマンドと、彼女が旅の途中で出会うデイブ役のD・ストラザーン以外は、全て本物のノマドということである。そのせいかまるでドキュメンタリーを観ているかのような生々しさが感じられた。こうした形態で撮られた作品は中々珍しいのではないだろうか。素人を起用して撮られた映画自体、決して珍しいわけではないが、ノマドにそのままノマドを演じさせる映画は今まで見たことがなかった。

 そもそもノマドの存在自体、この映画を観て初めて知った。劇中でも語られているがアメリカでは一定数彼らのような生活を送っている人々が存在し、その多くはファーンのような高齢者らしい。ノマドになった理由は人それぞれだろうが、ファーンの場合はリーマンショックが原因である。金融市場の破綻のあおりを受けた被害者の一人と言っていいだろう。彼女のような人が結構いることは、以前観たドキュメンタリー「キャピタリズム マネーは踊る」(2009米)の中でも語られていた。

 果たしてファーンの胸中はいかばかりか。それを察すると忍びない。
 そして、いまさら職に就くこともできず、その日暮らしの生活を余儀なくされた彼ら、ノマドたちは、結局コミュニティを形成することで生き延びていくしかない。

 物語は非常にシンプルである。基本的にはファーンと旅で出会う人々の交流を淡々と綴るロード・ムービーで、これと言って大きな事件が起こるわけではない。

 ただし、クライマックスでファーンがノマドとしての生き方に疑問を感じ始めるようになる。そこでの選択と葛藤はドラマチックである。そこにおける彼女の<決意>には不思議と共感を覚えた。実際にノマドのような暮らしを送りたいかと言われればNOであるが、奇妙なカタルシスが感じられた。

 淡々とした作りの映画だが、時折見られるユーモアも面白く観ることができた。広大な土地をさすらう旅は孤独で過酷だが、ノマド同士の繋がりは彼らの心の支えとなっていく。中には驚くほど陽気で安穏とした人たちもいて、これはこれで悪くない生き方なのかもしれない…とも思った。

 キャストでは、ファーンを演じたF・マクドーマンドの妙演が素晴らしかった。
 本作はとにかくクローズアップが多い。夫と死別し、家を奪われた悲劇の身の上ながら、決して嘆くことなく、ただ目の前の暮らしを時に飄々と、時にしんみりと体現している。その絶妙な表情の数々を見ると、彼女は完全に名優の域に達したのだなと思わされる。前作「スリー・ビルボード」(2017米)も素晴らしかったが、今回は更に神がかって見えた。

 監督、脚本はクロエ・ジャオ。本作が長編第2作目ということである。ドキュメンタルなスタイルに果敢に挑んでいるが、先ほども述べた通り要所のユーモラスな演出などにこの監督のセンスが感じられる。陰鬱になりがちな物語に上手く抑揚をつけながら、飽きなく観れるように作っている所に感心させられた。

 特に印象に残ったのはラストショットである。この画面構図はその手前、デイブ邸で小さな窓から外を眺めるファーンの後姿のカットとオーバーラップする。この時の彼女の窮屈な感情は手に取るように分かるのだが、それとの対比でラストショットの解放感溢れる映像は実にダイナミックだった。

 大自然を捉えた映像は言わずもがな。実に美しく、ファーンの寂寥感も見事に表象している。
[ 2021/04/03 00:29 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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