「異端の鳥」(2019チェコウクライナスロヴァキア)
ジャンル戦争・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) ホロコーストを逃れた少年は両親と離れて叔母を頼って田舎へ疎開してきた。しかし、村中から虐められ、叔母が急死すると、身寄りを失った少年は旅に出る。そして、行く先々で共同体の異物として扱われ、壮絶な虐待を受けていくようになる。
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(レビュー) ユダヤ人迫害を受ける少年の旅路をモノクロ映像で綴った3時間弱の大作。
イェジー・コジンスキーの同名原作(未読)は発表当時、相当バッシングされたようだが、この映画もかなりセンセーショナルな内容で観る人によっては噴飯ものだろう。というのも、主人公の少年が受ける暴力の数々は余りにも凄惨だからである。映画祭の観客が途中で席を立ったという話も聞き及んでいる。確かにそこまでやる必要があるのか?という意見が出てくるのは当然かもしれない。しかし、ここまでやったからドラマに説得力が生まれたとも言える。個人的は後者の意見である。
実際、画面上に流れる戦争と暴力の映像は有無をも言わせぬ迫力に満ちており、終始圧倒されっぱなしだった。ここまでやったからこそテーマも真摯に受け取めることができた。
尚、コジンスキーはP・セラーズ主演の「チャンス」(1979米)の原作者でもある。あちらはコメディ色が入り混じった風刺劇で、本作のハードなテイストと全く異なることに驚かされる。
まず何と言っても、冒頭からしてショッキングである。動物愛護団体が見たらクレームを入れかねない内容で、自分もいきなり驚かされてしまった。その後も目を覆いたくなるような虐待、残酷描写は延々と続く。直接的な表現もあり、R15指定のレイティングも納得である。
中でも最も印象に残ったのは、本作のポスターにもなっているシーンである。土に埋められた少年が頭だけを地上に出して、そこにカラスの集団が襲い掛かるという、北野武監督の
「アウトレイジ 最終章」(2017日)を思わせるトラウマ必至の場面だった。
他にも、少年は天井に吊るされて折檻されたり、肥溜めに投げ入れられたり、レイプされたり等々。年端もいかぬ幼い子供に対する残酷な仕打ちの数々が繰り広げられていく。正直、観てる最中は辛いものがあった。
また、本作は動物に対する虐待も幾つか登場してくる。最も印象的だったのは、鳥を捕まえて売る男が小鳥に白いペンキを塗って空に放すシーンだった。その小鳥は群れに入ろうとするのだが、色が違うために周囲から攻撃されて死んでしまう。本作の原題「The Painted Bird」はこのシーンから来ているのだろう。当然これは主人公の少年のメタファーにもなっている。
劇中にはこのようなシビアなシーンが次々と出てくるので苦手な人は確実にいると思う。
ただ、その一方で少年が出会う人たちの中には善人もいて、そこだけはホッと一息付ける感じがした。ステファン・スカルスガルド演じるドイツ兵、ハーヴェイ・カイテル演じる司教、バリー・ペッパー演じるロシア軍の狙撃兵。彼らは少年を助ける、あるいは成長を促す存在として登場してくる。演者がいずれも著名なスターで役得感が忖度されている節もあるが、彼らによって物語にバイブレーションが生まれ、過酷な旅にどこか救いも感じられた。
最終的に少年は様々な地獄めぐりを経て世の中の理不尽さ、残酷さを身をもって知り、そしてそんな世界に自分はどう対峙していくべきかを決断していくことになる。
しかして、クライマックスで彼は”ある行為”に及ぶことで、この残酷な世界に対する復讐を果たすことになる。人の悪意を包み隠さずどこまでも曝け出した結果として、このクライマックスは当然の結末として受け止めることができた。ある意味で、戦争や争いはこうして生まれる、ということを思い知らされたような気にもなった。
尚、本作のセリフはインタースラーヴィクという人工言語が使用されているということである。あまり耳馴染みがないので一体どこの国を舞台にした物語なのだろう…と思ったのだが、それもそのはずである。製作サイドは、この物語を特定の場所に限定したくなくてそうしたのだという。
思えば、この映画は始まってから暫くは時代設定も場所もよく分からないまま進行する。何となくロシアのどこかの村という想像はできるが今一つ判然としない。そうこうしながら観ていくと、途中からドイツ軍が登場してようやくこのドラマは第二次世界大戦時の東欧の某国を舞台にしているのだな…ということが分かる。どこの国か特定させないという、この作りからして本作は寓意性が強い。
恣意的に寓話化を狙ったのには明らかに理由があろう。つまり、本作はホロコーストをテーマにした物語だが、それはあくまでドラマの素材に過ぎず、本当はもっと普遍的なことを描こうとしているからだ。自分は本作を観て、どの世界にも、いつの世にも起こりうる排斥、ヘイトを描いた物語に思えた。
今や多くの国が抱える移民問題然り。その実態を鑑みれば、製作サイドのその狙いは間違っていないように思う。これは現代にも通じる寓話である。