「トラスト・ミー」(1990英米)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 16歳の少女マリアは高校を中退し、両親に妊娠したことを告白する。それを聞いた父は心臓マヒで急死してしまった。母に家を追い出されたマリアは、読書好きでテレビ嫌いな一風変わった青年マシューと出会う。マシューはマリアに夢中になっていくのだが…。
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(レビュー) 妊娠した少女と一風変わった青年の恋をユニークなスタイルで切り取った青春ロマンス作品。
監督はニューヨークのインディペンデント界で活動し続けるハル・ハートリー。本作は彼の長編映画2作目である。尚、長編処女作「アンビリーバブル・トゥルース」(1989米)は未見である。いずれ機会があれば観てみたい。
物語はマリアとマシューの視座で進行する。二人は夫々に両親と対立している。
マリアは母親に縛られながら鬱屈した日々を送っている。ある日、妊娠を告白したことで父が急死し、マリアは家を追い出されてしまう。
一方のマシューも偏屈で厳格なシングルファザーと無味乾燥な暮らしを送っている。父とは全くそりが合わず、常に険悪な関係にある。
物語は、そんな毒親を持つ若い二人が出会うことで始まる。今までの暗く沈んだ暮らしに灯りをともしながら、未来に向かって歩み進む彼らの姿には”いじらしさ”と瑞々しさが感じられ、実に愛おしく見れた。
しかして、ラストの痛快にして悲哀を滲ませたエンディングには深い感銘を受けた。通俗的なロマンス映画を一蹴してしまうような力強さと特異なユーモアはドラマの締めくくり方としては見事というほかない。
もっとも、単純にハッピーエンドというわけではないので、観る人によって評価は分かれるだろう。中にはこれをバッドエンドと捉える人がいるかもしれない。
しかし、そもそもこの映画は若い二人の悲惨な日常を描いている割に、どこかユーモラスなテイストが貫かれている。そのテイストからすれば、この結末もどこか楽観的に見れてしまう。おそらく遠くない未来、二人は結ばれるに違いない…。そんな希望的観測に満ちた終わり方で自分は好きである。
ハートリーの演出は相変わらずスタイリッシュで引き込まれた。後年の
「ブック・オブ・ライフ」(1998米)のような鼻につく過剰さはなく、程よい凝った演出で大変観やすく仕上げられている。
また、随所にシュールなタッチが混入されるのも面白い。例えば、壊れたテレビを抱えて修理屋に並ぶ人の行列など、普通に考えたらあり得ない光景だがクスリとさせられた。
冒頭のマリアの父親の死に方も然り。平手打ちをされて倒れてそのまま帰らぬ人になってしまうなど、ほとんど冗談みたいな死に方である。
クライマックスも実際には殺伐としたシーンなのだが、ほとんどコントのようなノリなので楽しく観れる。ここで前半に出てきた”あるアイテム”が登場するのだが、この伏線回収も中々に気が利いていて面白かった。
尚、伏線と言えば、マリアが雑貨屋の前で出会った謎めいた中年女性は中々良いキャラクターをしている。彼女は物語終盤のキーパーソンとなっていくので注意して見ておきたい。
キャスト陣も大変魅力的だった。マシュー役のマーティン・ドノヴァンはハートリー作品の常連で今でもハリウッド大作などにも出演しているベテラン俳優である。今回は不器用で屈折した青年を初々しく好演している。
マリア役の女優も中々に良かった。時々メガネをかけるのも萌えポイントである。