「キャロル」(2015米英仏)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 1950年代、クリスマスを控えたニューヨーク。高級百貨店のおもちゃ売り場で働くテレーズは、写真家になる夢を持ちながら恋人と充実した日々を送っていた。しかし、どこか満たされない感情も抱いていた。ある日、ゴージャスな毛皮のコートを着た女性キャロルと出会う。彼女は夫と愛のない生活を送りながら幼い一人娘にすべての愛情を注いでいた。キャロルとテレーズは互いに惹かれ合いながら交友を育んでいくようになる。
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(レビュー) 「太陽がいっぱい」などで知られるパトリシア・ハイスミスの同名小説を
「ベルベット・ゴールドマイン」(1998英)、
「アイム・ノット・ゼア」(2007米)の鬼才トッド・ヘインズが映画化した作品。
当時はタブーとされていた女性同士の禁断の愛をドラマチックに綴ったメロドラマである。
かなりベタなドラマであるが、映像面でのクオリティが非常に高く1950年代のアメリカの風景が見事に再現されていて見応えを感じた。但し、映像的なスケール感が今一つ物足りないのは残念である。おそらく予算が決して潤沢ではなかったのだろう。
よくよく見るとトンネルのシーンなどは編集でかなり誤魔化している感じがする。どうにか工夫して撮っているというのがありありと見て取れた。
本作の撮影監督はエドワード・ラックマン。ヘインズ監督とは「エデンより彼方に」(2002米)を含め3回組んでいる。今作でアカデミー賞を含め多数の映画祭でノミネート&受賞しているが、こうした撮影上の工夫が評価されたのだろう。
物語は紋切り的な感じはするものの、古風なメロドラマとしてみれば安定感はある。
途中からキャロルとテレーズのロードムービーになっていくあたりは面白いし、キャロルと夫の間で娘の親権問題が勃発するのも定番であるが終盤のツイストを上手く盛り上げていた。女としての幸福と母親としての幸福。一体どちらを選択するのか。キャロルの葛藤が実に切なく観れた。
思えば、キャロルが何故テレーズのような決して裕福とは言えない少女に惹かれたのか…というと、それは肉体的な若さに対する郷愁もあったのだと思う。おそらく失われた自らの青春を彼女の中に再生させたかったのだろう。これは過去を引きずった後ろ向きな未練とも言える。それゆえにキャロルのテレーズへの愛は観てて非常に切なく感じられた。
一方のテレーズにもそれなりのバックストーリが用意されている。彼女はプロの写真家になりたくて、日々アルバイトに精を出している。交際中の恋人から結婚を申し込まれるが、自分の夢をあきらめきれない彼女はそれを袖に振る。女として幸せを取るか、キャリアを取るか。その狭間で彼女もまた葛藤する。
キャロルを演じるのはケイト・ブランシェット。満たされぬ妻としての顔、娘に向ける母としての顔、テレーズに見せる魔性の女としての顔。様々な顔を見せながら貫録の演技を披露している。
テレーズを演じるのはルーニー・マーラ。ミア・ファローを彷彿とさせるコケティシュな魅力が全開でこちらも好演と言えよう。
尚、劇中では二人の濃厚なラブ・シーンも用意されており、そこも本作の大きな見所である。