「フォックスキャッチャー」(2014米)
ジャンルスポーツ・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1984年のロサンゼルスオリンピックで金メダルを獲得したレスリング選手、マーク・シュルの元に大財閥デュポン家の御曹司ジョン・デュポンの連絡が入る。彼が結成したレスリング・チーム“フォックスキャッチャー”への参加をオファーされた。メダリストとは言っても苦しい生活を強いられるマークにとってそれは願ってもないチャンスだった。マークはこの申し出を受け、早速、最先端トレーニング施設を有するデュポンの大邸宅を訪れるのだが…。
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(レビュー) レスリングのオリンピック金メダリストと彼を支えた大富豪の愛憎をシリアスに綴った人間ドラマ。実話の映画化である。
但し、実話とは言っても、この映画の中で描かれていることは必ずしも全てが真実とは言えない。そのあたりはこの記事に詳しく描かれているので参照されたし
(映画『フォックスキャッチャー』では描かれなかった17の真実!)。
監督は「カポーティ」(2005米)、
「マネーボール」(2011米)のベネット・ミラー。これまで撮ってきた映画はいずれも実話物であり、ジャーナリスティックな視線が感じられる問題作ばかりである。その彼が今回取り組んだのがスポーツ界の”闇”というのは当然と言えば当然かもしれない。この監督は徹底してドキュメンタル志向なのだろう。
とはいえ、先述したように実際の事件背景とはかなり違っている点もあり、このあたりは映画を観て戸惑いをおぼえる所である。しかも徹底したリアリズムで演出するから余計にたちが悪い。本作を観て全てを真実と受け取る人もいることを考えると、今回の創作姿勢は余り感心しない。
ただし、映画自体は困ったことに実に面白い。人間の欲望、嫉妬、虚栄、様々なエゴがドラマチックに描かれており、たとえ脚色されているとはいえ一時も目が離せないスリリングな作品になっている。
物語は、孤独な金メダリスト、マーク、彼をサポートするデュポン、更にはマークの兄で同じレスラーであるデイヴ。この三人の愛憎劇となっている。マークはデイヴに対するコンプレックスを抱いており、いつか兄を超えたいと思っている。そこにデュポンが現れて、お前をもっと強くしてやると指南していく。
普通のスポーツ映画であればここから一気に上昇志向のドラマに転換していくのだろうが、本作は違う。確かにマークは一時は栄光を掴みとるが、その座に満足し徐々に堕落していくようになっていく。デュポンはそんな彼を奮起させる理由から、ジムに新たにデイヴを招き入れて二人を切磋琢磨させようと画策する。ところが、これがかえってマークの心を傷つけることになってしまう。
三者三様、それぞれの思惑が濃密に描かれていて面白い。特にデュポンのキャラクターは秀逸である。
やはり彼もマーク同様コンプレックスの塊のような男で、そのコンプレックスの対象が母親にあるという点が出色だ。幼い頃から何不自由なく暮らしてきた御曹司だが、厳格な母との間には長年に渡って確執があり、その反発が今の彼を形成している。母に認められたいという自己顕示欲とも言える。例えば、トレーニング場に母親が見学しにやって来るシーンがあるが、ここで彼は得意気に彼女に自慢する。このように本作はデュポンの目線に立って観てみても面白い物語になっている。
一方でマークとデイヴの軋轢も濃密に描かれていて見応えがあった。こちらは主にマークに感情移入しながら観れるように構成されており、個人的にはモーツァルトとサリエリの愛憎を描いた傑作「アマデウス」(1984米)を連想した。
キャスト陣の好演も見逃せない。
デュポンを演じるのはスティーヴ・カレル。
「40歳の童貞男」(2005米)等、主にコメディ映画で活躍していたが、今回は徹頭徹尾シリアスな演技を貫いている。特殊メイクも奏功しているとはいえ、何を考えているのか分からない不気味さが加わり、ある種得体のしれないモンスター感を醸しキャリア最高の演技を披露していると言って良いだろう。
マークを演じるのはC・テイタム。
「マジック・マイク」(2012米)、
「21ジャンプストリート」(2012米)等、彼もどちらかと言うとコメディ作品を得意とする俳優だが、ここでは終始シリアスな演技に徹している。
そして、デイヴを演じるのはマーク・ラファロ。すでに数々の作品で芸達者ぶりを見せいている彼だが、本作は一見して彼と分からぬような禿げあがり方をしていて、これも特殊メイクの妙だろう。安定した功演を披露している。