「15時17分、パリ行き」(2018米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) アンソニー、アレク、スペンサーの3人は、幼い頃から親友同士である。成長し離ればなれになった彼らは、今でも時々連絡を取り合いながら互いの友情を確かめ合っていた。ある日、3人はヨーロッパ旅行を計画するのだが…。
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(レビュー) 2015年に起こった高速鉄道タリス銃乱射事件に巻き込まれた3人の若者たちの姿を時世を交錯させながら描いた実録サスペンス。
監督はC・イーストウッド。
「アメリカン・スナイパー」(2014米)、
「ハドソン川の奇跡」(2016米)に続き、またしても実話の映画化である。更に
「ジャージー・ボーイズ」(2014米)、
「J・エドガー」(2011米)まで遡れば、ここ最近のイーストウッドはずっとノンフィクション物付いている。中でも「アメスパ」、「ハドソン川の奇跡」、そしてこの「15時17分、パリ行き」は、いずれも主人公がヒーローという所が共通していて興味深い。
もっとも、今回の主人公3人組は前2作に比べると、知名度はかなり低いし、事件そのものを知っている人はいても彼らのことまで知っているという人はそれほどいないであろう。実際、自分はこの事件のことを知らなかった。
今回の主人公アンソニー、アレク、スペンサーはごく平凡な若者である。確かに多くの乗客の命を救った英雄かもしれないが、スケール感という意味では前2作の主人公に比べると地味な印象は拭えない。
本作で目を引くのはキャスティングであろう。驚くべきことに、主人公の3人を演じたのは、実際に事件に遭遇した本人たちということだ。プロの俳優ではない彼らを起用した意図は一体どこにあったのだろう?残念ながら、映画を観終わっても自分はその意図が今一つ掴めなかった。
仮にリアリズムを追求したかったということであれば、3人の馴れ初めを描く過去パートの挿入はリアリズムを壊す構成であるし、逆に単に再現映像を撮りたいのであればプロの俳優をキャスティングした方が断然いいわけである。それをわざわざ本人たちに演じさせるというのは、どうしても合点がいかない。商業的にも演出的にも非常にリスクが高いだけなのではないだろうか。
もっとも、主役の3人は決して演技が下手というわけではない。好演というほどではないが、中々健闘していると思った。
ちなみに、3人が事件に遭遇するまでの間、ひたすら観光地巡りが続くが、おそらくこれもイーストウッドは狙ってやっているのだろう。平和な日常を破壊してしまうテロの”怖さ”を強調すべく、こうした構成にしているのだと思う。
普通のハリウッド映画であればこうはならないだろう。おそらく見せ場となるテロのシーンをメインに据えてサスペンスとアクションで見せる映画になっていたと思う。しかし、イーストウッドは敢えてその法則を外し、彼らの日常の美しさ、楽しさを存分に見せることに注力している。
したがって、キャスティング同様、物語の構成も非常に歪な作品となっている。