「ライトハウス」(2019米)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 1890年代、ニューイングランドの孤島の灯台にベテラン灯台守と若手灯台守が赴任する。4週間にわたって2人は灯台の管理を行うことになる。しかし、ベテランのトーマス・ウェイクは若いイーフレイム・ウィンズローをこき使うばかりで、ウィンズローのストレスは募る一方だった。険悪な雰囲気の中、二人の共同生活は続いていくが…。
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(レビュー) 嵐に閉ざされた孤島の灯台で繰り広げられる狂気の日々を禍々しいトーンで綴った異色スリラー。
監督、脚本は
「ウィッチ」(2015米)で世界的に注目されたロバート・エガース。独特の不気味なトーンは今回も健在で、改めて氏の演出力の高さに脱帽してしまう。
しかも今回は登場人物はほぼ二人、場所も孤島の灯台という限定された空間で、その中に神話や伝承といったファンタジーをミステリアスに加味しながら緊張感みなぎる作品に仕上げられている。通俗的なドラマとは一線を画した極めて特異なスタイルの映画となっている。
また、途中で判明するウィンズローのバックストーリーは、更に物語を複雑怪奇にしていて、これは言わば人間の二面性を言い表しているとも取れる。光と影。陽と陰。表と裏。ウィンズローとウェイクそれぞれのキャラクターに巧みに託されているあたりは実に秀逸だ。
個人的にはウェイクはウィンズローの影、陰、裏の顔だったのではないかと解釈している。
いずれにせよ、この特異な物語は単純にホラーという枠組みには収まりきらない深いドラマ性を持っている。何度か観て解釈を試みるタイプの映画だと思う。
尚、今回の脚本はロバート・エガースと彼の兄弟であるマックス・エガースによる共同執筆である。余りにも解釈の幅を持たせた結果、今一つまとまりに欠く部分もあるのだが、それを差し引いてもこの兄弟の才能には感嘆してしまう。
映像も実によく考えられて作られていると思った。
まず、何と言っても目を引くのは画角である。普通の映画はビスタサイズであるが本作はほぼ1:1のスクウェアサイズである。一部ロケーションが広がる瞬間だけは横長のサイズに切り替わるが、それ以外は全編正方形である。この画面から受ける印象は閉塞感だ。ビスタサイズを見慣れている自分からすると、ずっと窮屈な感じを受け、ウィンズローたちの精神的ストレスがダイレクトに伝わってきた。
そして、映像は全編モノクロである。これも緊張感と不気味さを見事に煽っている。
キャストの熱演も素晴らしい。ウェイクを演じたウィレム・デフォー、ウィンズローを演じたロバート・パティソン、夫々にテンションの高い演技を披露している。極限的状況に追い詰められた人間の狂気を見事に体現している。
尚、灯台守の平凡なルーチンワークに
「裸の島」(1960日)、密閉された空間で行われる愚かしい衝突に
「人間」(1962日)といった新藤兼人作品を連想した。
また、灯台の内燃機関のインダストリアル感と耳をつんざくようなノイジーな霧笛にはD・リンチの「イレイザーヘッド」(1993米)のようなテイストも感じられた。
他にも「2001年宇宙の旅」(1968米英)や「砂の女」(1964日)等、様々な作品が思い起こされる。果たしてロバート・エガーズがどこまで意識しているのか分からないが、映画通であれば色々な楽しみ方ができる作品ではないだろうか。