「プロミシング・ヤング・ウーマン」(2020米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 元医大生のキャシーは、かつての輝かしい未来を捨て去り、現在は小さなカフェで働いていた。しかし、それは表の顔で、夜になると彼女は化粧をしてバーへ繰り出し、泥酔したフリをして言い寄ってきた男たちに容赦ない鉄槌を下すという行動に出ていた。ある日、カフェで大学時代の同級生で小児科医になったライアンと偶然再会する。
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(レビュー) 昼はカフェの店員。夜は魔性の女。二つの顔を持つ女性が過去の”ある事件”の復讐を成し遂げていくサスペンス作品。
過去にJ・フォスターが主演した「告発の行方」(1988米)という映画があった。J・フォスター演じる女性が泥酔して複数の男からレイプされるというシーンが大変ショッキングだったが、本作を観てそれを思い出した。
最近ではセクシャルハラスメントの被害を被った女性たちを中心に「Mee To」運動が巻き起こった。そして、それを真正面から描いた「スキャンダル」(2019米)という映画も作られて評判を呼んだ。
こうした性暴力は世界各国で問題となっていて、本作はそうした流れの中で製作された作品であることは間違いない。非常に現代的なテーマを扱った作品と言って良いだろう。
とはいえ、今や女性が強い時代と言う人々もいる。これまでは被害を被った女性は泣き寝入りするだけだったが、最近では声をあげて戦うヒロイックさも今の時代の流れである。本作の主人公キャリーは、まさにそれを体現する女性である。必殺仕事人よろしく、下心見え見えで言い寄ってきた男たちに容赦のない鉄槌を下していく。何とも頼もしい女性である。
そして、そんな彼女の一人自警団から徐々に見えてくる過去の”ある事件”。これが物語の中で上手くミステリとして効いている。
また、キャシーとライアンのやり取りは隠滅としたドラマに清涼剤のような効果をもたらしていて、特に中盤のパリス・ヒルトンをBGMとしたダイジェスト風のデートシーンが良い。そして、この幸福なひと時までもが終盤の伏線だった…という所に脚本の巧みさを感じた。
しかして、最後は全て丸く収まってハッピーエンドになるのかと思いきや、本作はその予想も難なく裏切る。観る人によって賛否が分かれるかもしれないが、個人的にはこの幕引きには唸らされた。
本作の唯一の難は、前半のキャリーの制裁の描き方であろうか。割とコメディライクに味付けされているので、それほど気にはならないのだが、しかしよくよく考えてみると過去の事件に何の関係もないナンパ男に対して制裁を下すのはお門違いであろう。言わば、キャリーの”病んだ”独りよがりな行動であり、復讐の理にはかなっていない。だからこその”この顛末”なのだろうが、この時のキャリーの葛藤が浅薄に映ってしまった。もう少しと深く掘り下げられていれば、違和感なく観れただろう。
また、終盤の展開は結末ありきのご都合主義に見えてしまった。カタルシスはあるのだが、余りにも上手く行き過ぎている感じがした。もっと泥臭くしても良かったのではないだろうか。
製作、監督、脚本はこれが長編デビュー作となるエメラルド・フェネル。初見の監督であるが、どうやらこれまでは女優として活躍してきた女性らしい。残念ながら自分は1本も観たことがないので彼女の魅力は語れないが、少なくとも本作を観てディレクター、ライターとしての能力はかなり高いものを持っていると感じた。
演出は軽快で、映像づくり、特にファッションやプロダクション・デザインに関しては結構工夫が凝らされている。
キャストでは何と言ってもキャリーを演じたキャリー・マリガンの好演が印象に残った。ファニーな表(昼)の顔とセクシーな裏(夜)の顔。このギャップがキャラクターの魅力を引き立たせており、これは元来ベビーフェイスな彼女だからこそ可能となったキャラクターであろう。