「エレニの帰郷」(2008ギリシャ独ロシアカナダ)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 映画監督の“A”は、母エレニの愛の物語を映画にしようと苦闘していた----。1953年のソ連。かつて愛するスピロスと引き裂かれたエレニはギリシャ難民の町で暮らしていた。そこに彼女を追って遥々やって来たスピロスが現われ、2人はようやく再会する。ところが、スターリン死去の混乱の中で2人は逮捕され、再び離ればなれとなってしまう。シベリアに送られたエレニはそこでイスラエル難民ヤコブと出会い惹かれあっていくのだが…。
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(レビュー) 巨匠テオ・アンゲロプロス監督が”20世紀”を描く三部作の第2作。「エレニの旅」(2004ギリシャ仏独伊)の続編である。尚、第三作の撮影途中でアンゲロプロスは他界し、結局この三部作は完成しなかった。本作が彼の遺作となる。
物語は前作から続いているので、予め「エレニの旅」を鑑賞してから本作を観たほうが良いだろう。
前作で故郷を失ったエレニは大人へと成長し、今作では愛するスピロスと一時の幸福の暮らしに浸る。しかし、時はソ連激動の時代である。二人は再び離れ離れになってしまう。その時、エレニはヤコブというイスラエル難民と出会い淡い恋に落ちる。
一応物語の大筋はこういった感じなのだが、本作は構成が若干複雑で、エレニの過去のドラマはエレニの息子で映画監督Aが製作する劇中劇のスタイルで語られている。彼は母親エレニの物語を映像化中であり、その中でエレニのドラマが展開されていくのだ。
もちろん、現在のドラマの中でもエレニは登場してくる。エレニとスピロスは過去の受難の歴史を乗り越えて今では慎ましく暮らしている。そこにヤコブが現れる…というのが現代編のドラマとなっている。
注意して観てないと、これは現在のドラマなのか、それとも劇中劇の過去のドラマなのか分かりづらいので、そこは観る人によって混乱するかもしれない。
更に、現代編ではAと妻子のドラマも描かれているので、ますます物語は複雑化していく。
時世の往来と複数の人物が重層的に入り乱れる内容は、正直言ってやや不親切な作りに思えた。おそらく1回観ただけではすべてを理解するのは難しいのではないだろうか。
映像はアンゲロプロスらしいロングテイク&ロングショットが随所に見られ、氏の健在ぶりが確認できる。
例えば、Aがエレニと再会する国境のシーンは霧に包まれた幻想的な光景で印象的である。同監督作の「霧の中の風景」(1988ギリシャ仏)を連想させられた。他にも、病院の屋上でビラを配る女性の姿から歩道を行進する軍隊までを1カットで捉えたロングテイクも大胆で印象に残った。
ラストカットは、アンゲロプロスにしては珍しいスローモーションのロングテイクである。これも抒情的で面白い試みに思えた。
ただ、これまでの作品比べると、そこまで長回しは多くはない。また、意外にもクローズアップも結構多く、画面の壮大さという点では過去作に比べると物足りなさも覚えてしまう。
キャスト陣はW・デフォー、I・ジャコブ、M・ピコリ、B・ガンツといった国際色豊かな名優たちが揃っており見ごたえがあった。
尚、本編には20世紀を象徴するような事件が次々と登場してくる。スターリンの死、ベルリンの壁の崩壊、そしていよいよ1999年の大みそかという所まで描かれている。”20世紀”を描く本シリーズであるが、その20世紀はひとまずここで終着したということになる。果たして第3作ではどんな内容になるはずだったのだろうか?それは永遠の謎となってしまったが、返す返すも偉大な映画作家の死が惜しまれる。