「囚われの女」(1968仏伊)
ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス・ジャンルエロティック
(あらすじ) TV局に勤める若妻ジョゼは、ある日アーティストである夫の作品を展示するグループ展に出かける。夫は女性記者と仲良く出かけてしまい憤りをおぼえるジョゼ。そこに画商のスタンが現れ彼の自宅に招待される。ジョゼはどこか謎めいた彼と不倫関係に溺れていくのだが…。
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(レビュー) 変態趣向の間男に取り込まれながら未知なる性の世界に溺れていく人妻をシュールな映像で綴った作品。
まるで獲物を狙うかのような鋭い眼光と嫌らしく吊り上がった唇というスタンの造形が強烈な印象を残す。「コレクター」(1965米)におけるT・スタンプ、
「血を吸うカメラ」(英1960英)におけるカール=ハインツ・ベームに匹敵する怪演と言って良いだろう。いずれもオタク気質な青年という点が共通しているが、とりわけ後者との共通点は多い。女性の肉体をカメラに収めることで興奮するという性癖が異常である。
演じるのはローラン・テルジェフ。初見の俳優であるが、経歴を見ると色々と出演しているようだ。ただ、T・スタンプのように幅広く活躍しているとまでは言えず、フィルモグラフィーは随分と途絶えている。
物語はよくある不倫劇で取り立てて新鮮というわけではない。
それよりも、今作は映像的な面白みを堪能したい作品だ。現代ポップアート(と言っても1960年代だが)の世界を題材にしているだけあって、要所の映像の凝り具合が素晴らしい。
例えば、ジョゼが見る悪夢のシーンはシュールで幻想的でエッジも効いていて強烈な印象を残す。他にも、展示会場に並ぶ数々のポップアートも視覚的な面白さは十分に堪能できる。更に、中盤でジョゼとスタンが波しぶきの中で抱擁するシーンも迫力があって鳥肌物だった。
監督・共同脚本は傑作「恐怖の報酬」(1953仏伊)のアンリ=ジョルジュ・クルーゾー。本作が彼の遺作となる。製作当時61歳ということだが、セクシーなラブシーンや現代アートを取り込む映像センスは、とても61歳とは思えぬ若々しい感性である。もし存命であれば一体どんな作品を撮っていたであろうか?早逝が惜しまれる。