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ドライブ・マイ・カー

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「ドライブ・マイ・カー」(2021日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 舞台俳優で演出家の家福悠介は、自分の出張中に妻の音が他の男と抱き合ってるところを目撃してしまう。それから数日後、思いつめた表情で“今晩話がしたい”と言っていた音は、くも膜下出血で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまう。2年後、『ワーニャ伯父さん』の演出を任された演劇祭に参加するため広島へ向かった悠介は、そこで寡黙な女性みさきを専属ドライバーとして雇うことになる。

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(レビュー)
 村上春樹の同名短編小説を「ハッピーアワー」(2015日)「親密さ」(2011日)「PASSION」(2008日)の濱口竜介が脚本、監督を務めて撮り上げた人間ドラマ。

 約3時間の長尺ながら、濱口監督の端正な演出、キャストの魅力で最後まで飽きなく観ることができた。

 尚、本作は2021年のカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞している。原作(未読)は短編という事なので、3時間の物語にするには相当オリジナルの要素を加えたものと想像できる。濱口監督は去年公開された黒沢清監督の「スパイの妻<劇場版>」(2020日)でも脚本を共同で手掛けていたが、その時も氏のライターとしての働きぶりに感心したばかりである。常々思っているのだが、やはり濱口作品は”絵”で魅せるのではなく、あくまで”物語”で魅せる映画だと再確認した。

 物語はゆったりとしたテンポで展開される。シーンをじっくりと見せるのは濱口流の演出で、それゆえ上映時間は伸びるわけだが、過去の作品に比べるとそれほど苦にならなかったのは、無駄と思えるシーンが一切なかったからであろう。

 過去には「親密さ」における演劇シーンや「ハッピーアワー」における朗読会のシーン等、ドラマ的に余り必要性が感じられない冗長なシーンがあったが、本作ではそう感じるシーンはほとんど見当たらない。

 例えば、劇中には悠介が演出をする舞台劇『ワーニャ伯父さん』のオーディション風景や稽古風景が挿入される。過去の濱口作品であればここでドラマを停滞させてしまうのだが、今回はそうなっていない。というのも、舞台劇に関するシーンがメインのドラマに深くリンクしているからである。

 そして、この演劇は国際色豊かなキャストが夫々の母国語でセリフを喋るという一種独特の演劇になっている。これは何を意味しているのかと言うと、言語の空疎性を強調しているのだと思う。おそらく舞台上のキャストはセリフの細かな部分までは把握しているはずではない。それはセリフだから発しているだけであり、相手とのコミュニケーションを通して発せられた心からの言葉ではない。自分には、この多言語演劇が悠介と音の空疎な夫婦関係を暗に示しているように見えてならなかった。

 このように、『ワーニャ伯父さん』は本ドラマにおいて非常に重要なパートとなっている。メインのドラマを紐解く上でなくてはならないサイドストーリーのような役割を持たされている。

 もう一つ、悠介と音の夫婦関係と対照的に登場する韓国人夫婦も、ドラマ上かなり重要な配置を成している。妻の方は聾啞者で二人は手話で会話をする。彼らの関係性はストーリー上、ちょっとしたサプライズを演出していたが、そこも含めて悠介夫妻との差が感じられて面白い。

 特に中盤、悠介が彼らに食事に招かれるシーンは印象深かった。この時、悠介は彼らのことを羨ましく思ったに違いない。というのも、言葉を介さず手話でコミュニケーションを取る彼らの間には噓偽りといった感情は全くない。一方、悠介夫妻は上辺だけの言葉で本心では繋がっていなかった。どちらが尊く真意に満ちた関係かといえば、当然前者であろう。きっと悠介は、この韓国人夫婦の仲睦まじい関係を見て深く嫉妬したに違いない。

 こうした深遠で濃密な脚本を無駄なく描けた濱口竜介の才覚には改めて感服するほかない。過去の作品よりも確実にステップアップしているし、それがカンヌ国際映画祭という晴れ舞台で認められたことは大変喜ばしく思う。

 本作で唯一違和感を持ったのは、ドラマのクライマックスにかけてのシーンだった。ここで悠介とみさきが自分語りをするのだが、すべからく心の声を吐露するのは、いかがなものだろうか?それまでのミニマムな作りからすれば違和感を覚えてしまう。ここはもっと抑制した演出を望みたかった。
 また、エピローグもやや唐突に感じてしまった。個人的にはその手前で終幕させても良かったように思う。

 キャスト陣では、女性ドライバーみさきを演じた三浦透子の存在感が抜群であった。寡黙でミステリアスな造形が物語の求心力に一役買っている。ニヒルでダンディな佇まいは大変魅力的だった。
 音と不倫関係にあった高槻役を演じた岡田将生も良かった。特に、映画後半、車中で悠介と会話するシーンが印象深い。それまでのチャラチャラした風貌から一転、深刻な表情で音との関係を回顧する演技はキャラクターに上手く厚みをも持たせていた。
 逆に、悠介を演じた西島秀俊はやや一本調子な演技で食い足りなかった。全編出ずっぱりな上に、苦しい、空しい、音がどうして自分に黙って不倫を重ねていたのか分からない等々、”弱い”男性像に固執しすぎたきらいがある。彼のバックストーリーがほとんど語られないこともあり、その人間性が明確に掴めないまま映画は終わってしまったという印象である。
[ 2021/09/01 00:35 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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