「猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)」(2017米)
ジャンルアクション・ジャンルSF
(あらすじ) 猿の群れを率いるシーザーは、冷酷非情な大佐の奇襲によって愛する妻子を殺されてしまう。わずかな仲間と共に復讐の旅へと出たシーザーは、その道中で口のきけない人間の少女と出会い、ノバと名付けて一緒に旅を続けることにするのだが…。
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(レビュー) SF映画の傑作「猿の惑星」シリーズのリブート版。全3部作の最終章。
「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」(2011米)、
「猿の惑星:新世紀(ライジング)」(2014米)に続く第3作である。
前作でシーザーの片腕だったコバの反乱により、人類との争いに再び火がついた”猿”対”人類”の戦い。今作はそれから2年後を舞台にしている。
しかして、今回のシーザーの戦いは更にハードコアなものとなっていて、もはや復讐の連鎖といったテーマを軽く超えて、本作をもってシーザーという一人の英雄の神話にまで到達したように思う。権力闘争における欲望の醜悪さ、親子の絆の数奇、民族を率いる指導者としての苦悩といった様々なドラマを見事に着地させることに成功し、観終わった後にはギリシャ悲劇を見終わったような感動を味わえた。
この手の娯楽映画でここまで主人公が苦悩し続ける作品は珍しいのではないだろうか。延々と観客は鬱積を抱えることになり、決してハッピーになれる映画ではないが、そこに敢えて挑んだという意味においては本シリーズは大変冒険的な作品と言える。
もっとも、これは前2作についても言えることなのだが、確かに所々に脚本の穴はある。悩めるシーザーが大佐にアッサリと捕まってしまうあたりは都合が良すぎるし、人間側に寝返ったレッドの心変わりも葛藤描写が不足しているせいで説得力が薄い。人間同士の戦いをあそこまで大規模なものにする必要性があったのかどうか?曲がりなりにもアクション大作映画という対面性から大掛かりな戦闘にしたのだろうが、そもそも人類が絶滅寸前であることを考えれば不自然である。残念ながら、こうした疑問点は色々と残ってしまった。
しかし、ラストのエモーショナルさや人間の少女ノバに託された未来に対する希望、更にはエイプはエイプを殺さないという掟を逆手に取った戦いの顛末については実によく考えられていると思った。
各作品に登場する人間サイドの主役は全て変わっているのも特徴的で、そのたびにシーザーが置かれる状況も変わることになる。普通であれば3つの作品がバラバラになってもおかしくないところを、きちんと1本のストーリーとしてまとめ上げた点は称賛に値する。
このシリーズはオリジナルである「猿の惑星」シリーズの前日弾という位置づけになっていることを考えると、幕引きの仕方も見事のように思う。オリジナル版の第1作にそのまま繋がるかと言えばそういうわけではないが、安直にそこに持って行った所で陳腐になるだけである。シーザーの成長と葛藤に焦点を当てた一大叙事詩だという観点からすれば、むしろこのエンディングは正解だったように思う。
CGのクオリティについてはこれまで通り見事である。
シーザーを演じたA・サーキスの演技も素晴らしい。モーションキャプチャーの演技は演者の表情や所作が画面にそのまま映し出されるわけではないので評価されずらい面があるが、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのゴラム役の頃から活躍しているベテラン俳優である。その熟練した演技はもはやレジェンドと言って差し支えないところまで来ているように思う。