「ショック集団」(1963米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 新聞記者ジョニーは、精神病院内で起きた殺人事件を追って、患者を装い潜入ルポを開始する。ところが、周囲の環境に耐えられず、彼は徐々に精神が不安定になっていき…。
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(レビュー) 精神病院に潜入した新聞記者の体験を異様なタッチで描いたスリラー作品。
精神病というアンタッチャブルな題材をここまで堂々と扱ったことは、かなりスキャンダラスである。病院内の患者たちの奇行は、ある種見世物映画的にカリカチュアされているが、果たして映画が公開された当時、こうした描写が問題にならなかったのだろうか?それとも映画=エンタメということで割り切って捉えられたのだろうか?
製作、監督、脚本は孤高の作家サミュエル・フラー。元々一癖も二癖もある作品を撮る作家なので、今回の際どい内容もいかにも氏らしい題材だ。
物語は一本調子ながら、フラーの幻惑的で悪魔的な映像演出が非常にパワフルで、そこに魅了される。
例えば、ジョニーの夢のシーンは強烈な印象を残す。ダンサーの恋人の姿をオーバーラップで表現しながら悪夢のような不安感を創出している。例えるならD・リンチ作品を彷彿とさせる異様な雰囲気に溢れている。
映像は全編モノクロで、シャープなコントラストで表現された印影がどこかフィルムノワールのタッチを思わせる。これも大変に魅力的だった。
そして、何と言っても患者たちの奇行の数々。これが画面に奇妙でシュールな味わいをもたらしている。中には、かなり吹っ切れた演技をする者たちもいて、そこが恐ろしくもあり、滑稽にも感じたり…。
中でも、KKKを崇拝する黒人男性のハイテンションな演技には参ってしまった。モラルを重視する人が観れば噴飯ものであろう。
尚、精神病院を舞台にした映画と言えば「カッコーの巣の上で」(1975米)が思い出される。あれはヒューマニズムなメッセージが込められた作品だったが、それと本作はまったく正反対な立ち位置を示している。フラーの演出が徹底してドライなため、どこか寓話のようにも見え、ある種終末感溢れる異世界のようにも感じられた。同じ舞台を映画にしながらまったく異なるアプローチをしている所が面白い。
また、主人公が徐々に狂気に蝕まれていく過程は、S・キューブリック監督の「シャイニング」(1980英)も連想させられた。今作のジョニーを演じたピーター・ブレッコは、あの時のJ・ニコルソンの鬼気迫る怪演に勝るとも劣らない演技を披露している。