「突然の訪問者」(1972米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) ベトナム帰還兵のビルは、内縁の妻マーサと生まれたばかりの息子ハルと、マーサの父親で売れっ子作家ハリーが所有する田舎のコテージで暮らしていた。ある日、ビルのベトナム時代の戦友だったマイクとトニーが訪ねてくる。 マーサは2人を招き入れるが…。
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(レビュー) ベトナム帰還兵とその家族が体験する恐怖の一夜を異様な雰囲気で描いたサスペンス映画。
「波止場」(1954米)、「エデンの東」(1955米)、「欲望という名の電車」(1951米)、
「革命児サパタ」(1952米)等で知られる名匠エリア・カサンによる晩年のサスペンス作品である。
カザンは一時は飛ぶ鳥を落とす勢いで精力的に傑作を輩出した名匠だが、晩年は必ずしも順風満帆だったわけではない。彼は赤狩りの時代に権力側に加担したおかげで映画作りを自由にできる”通行手形”を手にした。しかし、結果的にそれは彼に「裏切者」というレッテルを張ることになり、冷戦後はハリウッドから遠ざかるようになってしまう。この「突然の訪問者」はその渦中にあったカザンが、小さなバジェットの中で自主製作に近い形で製作した小品である。
尚、脚本は彼の息子であるクリス・カザンが務めている。彼もまた父親同様、業界では思うように仕事ができず、結果的に本作を含め2本しか脚本を書けなかった。
こうした色々な事情のうえで成り立っている作品なので、映画の作りはお世辞にも上手く出来ているとは言い難い。主な舞台は田舎のコテージに限定され、キャストも最小限しか登場せず、上映時間も90分弱しかない。カメラのピントが時々合ってない個所もある。低予算で少人数のスタッフで製作されたことは映像を見ると一目瞭然で、そこにかつての名匠の影はない。
しかし、カザンの演出自体はまだまだ衰えておらず、ビルとマーサ、そこに訪れた二人の元戦友の間で交わされる不穏な空気はゾクゾクするような緊張感を創出し、そこに氏の手練が感じられる。
ある程度予想できるとはいえ、ビルの過去にまつわる”秘密”も、製作された時代を考えれば相当衝撃的だったのではないだろうか?ベトナム戦争でアメリカ軍が起こした歴史的”恥部”を果敢に照射したことは意義深い。
キャストではビル役を演じたジェームズ・ウッズが本作で映画デビューを果たしている。いきなりの主演だが、まだ線の細いナイーブな青年役で、その存在感は中々のものである。彼のファンならば押さえておいた方が良い作品である。