「ハードコアの夜」(1979米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 家具工場を営むジェイクは、妻と別れて娘クリステンと暮らしていた。ある日、カリフォルニアに出かけたクリステンがそのまま行方知れずになってしまう。娘を探すために私立探偵を雇ったが、彼が持ってきたのは娘が出演しているポルノ映画だった。怒りに燃えたジェイクは、風俗街に潜入して娘の足取りを追うのだが…。
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(レビュー) 家出した娘を捜索する父の執念を乾いたタッチで描いたサスペンスドラマ。
話自体はよくあるネタで特に捻りはないのだが、ジェイクのキャラクターが際立っているので最後まで面白く観ることができた。
ジェイクは世間一般で言う所の仕事一筋の頑固親父である。そのせいで妻に逃げられ、娘とも疎遠になっている。そして今回その娘にも逃げられてしまい、ついに彼自身が娘を探し出そうとポルノ業界に潜り込んでいく。
普段はスーツをビシッと決めて仕事に専念する頑固親父が、まったく知る機会もなかった性風俗の世界に足を踏み入れて行くのだから、このキャラクターギャップは実に面白く観れる。
ジェイクを演じるのはジョージ・C・スコット。「パットン大戦車軍団」(1970米)のパットン将軍、「ハスラー」(1969米)の冷酷な賭博師、
「センチュリアン」(1972米)のベテラン警官等、どちらかと言うと泰然自若としたキャラクターを演じることが多い彼が、ここではラフな出で立ちで右も左も分からないポルノ業界を練り歩いていく。これまでのイメージを覆すようなキャラクター造形になっていて面白い。
監督、脚本はポール・シュレイダー。M・スコセッシの傑作「タクシードライバー」(1976米)の脚本家として頭角を現してきた作家であるが、その後は自分でも監督業に進出し「キャット・ピープル」(1982米)や
「魂のゆくえ」(2017米)といった話題作をコンスタントに撮りあげているベテラン作家である。今回は設定的にどうしても「タクシードライバー」を連想してしまうが、おそらく本人の中でもそうした意識はあったのだろう。
その証拠に、夜の風俗街をドキュメンタリックに捉えた映像は「タクシードライバー」のそれとそっくりである。そもそも撮影監督からして、同じマイケル・チャップマンということなので、どうしたって映像は似てきてしまうのは仕方がないが、それにしてもこの両作品はドラマも映像もよく似ている。
シュレイダーの脚本は、父娘の愛憎劇だけに絞って言えば紋切的でやや食い足りなさを覚えるが、その物足りなさを補って余りあるジェイクの人間的な魅力。更に、彼と共に捜査に関わっていく私立探偵や娼婦といったサブキャラの絡ませ方の上手さが光る。とりわけ、ジェイクと娼婦のやり取りは中々味わい深く描けていて、これはある種疑似父娘的な見方もでき、こうした所にシュレイダーのライターとしての上手さを感じる。