「シシリーの黒い霧」(1962伊)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 1950年、シチリアのある家でサルヴァトーレ・ジュリアーノという若者の射殺死体が発見される。当局の調べで彼はマフィアの一員であったことが判明する。時代は遡り、1945年のシチリア。戦後の混乱の中でジュリアーノは山賊の長としてその名を轟かせ、王政打倒を掲げた独立義勇軍として大きな力を付けていくようになる。
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(レビュー) 戦後シチリアの動乱の歴史をドキュメンタリックに描いた作品。
監督・共同脚本はヴィスコンティの「揺れる大地」(1948伊)や
「ベリッシマ」(1951伊)で助監督や脚本を務めたフランチェスコ・ロージ。この出自からも分かる通り、根本にはネオリアリズモの血が流れており、それだけに本作も徹底したリアリズム主義が貫かれている。
映画はナレーションを被せながらあたかも記録映像を見ているかのようなカメラワークと編集で展開されていく。物語は1950年の現在と1945年以降の過去を淡々とカットバックさせながら進行し、その中で冒頭で描かれたジュリアーノの死の真相が解明されていく。この構成によって、観る側はジュリアーノの死が避けようがない必然であったこと、動乱の歴史がそこには重くのしかかっていた事実を知ることとなる。
面白いのは、物語の主人公ジュリアーノがすでに殺された後から始まっていることである。現在のドラマには一切彼が登場することはなく、出るとしても死体としての姿だけである。そして、過去編でも、彼の顔はアップで映らず、一体どこにいるのかすら分からないほど小さくしか出てこない(かろうじて彼が着ている白いコートが目印になる程度だ)。この存在感の薄さは異常で、そこに人物の内面や葛藤はほとんど見えてこない。それゆえ、この映画はドキュメンタリーさが増すことになっている。
とはいえ、演劇的な演出もそこかしこに見られるのは興味深く、そこにロージ監督の手練が確認できる。
例えば、ジュリアーノのアジトは丘の上にあり、そこからシチリアの街が一望できるようになっている。ここでのセリフは何故か大仰で演説風だ。
あるいは、大量のモブを起用したダイナミズム溢れる遠景シーンの数々は、シチリアという町並みを一種のアートのように見せ。このロケーションには目を見張るものがある。
物語は中盤以降、徐々にジュリアーノ殺害の犯人追及に焦点が当てられていくようになる。現代編の法廷で明るみになる意外な真犯人。第二次世界大戦時に力を失いかけたマフィアが、この頃から徐々に勢力を強めて行ったこと。こうした歴史がよく分かる内容となっていて興味深く観れた。
尚、フランチェスコ・ロージは本作の後に「コーザ・ノストラ」(1973伊仏米)というギャング映画を撮っている。これはアメリカのイタリア系マフィア、コーザ・ノストラの幹部ラッキー・ルチアーノの短い生涯を描いた作品だが、本作から続けて観ると、イタリア系マフィアがどのように勢力を拡大していったのかが多角的に理解できるので興味があればご覧いただきたい。