「007 スペクター」(2015英米)
ジャンルアクション・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ジェームズ・ボンドは“死者の日”の祭りでにぎわうメキシコシティで凶悪犯スキアラと大立ち回りを演じ、街中を混乱に陥れてMから職務停止を言い渡されてしまう。折しもMI6はその存在意義を疑問視されMI5に吸収されようとしていた。そんな中、ボンドは名誉挽回を目指してローマへと飛び、そこで事件の落とし前を付けようとするのだが…。
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(レビュー) シリーズ第24作。ボンド役がダニエル・クレイグになってからは4作目となる本作。監督は前作
「007/スカイフォール」(2012英米)でシリーズの新境地を開いて見せたS・メンデスが引き続き登板している。
「スカイフォール」はシリーズの常道を外した異色作で、正に一発勝負の禁じ手的な作品だった。そこをメンデス監督はどう切り替してくるのか?今回はそこに注目して観た。
結果、実にオーソドックスな007になっていると感じた。同じ監督でもこうもテイストが変わるのか、と驚かされる。それくらい今回は前作と打って変わって娯楽色に寄った作りになっている。
今回のボンドの敵となるのは、シリーズではお馴染みの”スペクター”である。組織の首領プロフェルドは、これまでにも何度か登場しており、色々な俳優が演じてきた。個人的には「007は二度死ぬ」(1967英米)のD・プレザンス版が最も印象に残っている。その人気の高さは後に「オースティン・パワーズ」(1997米)でM・マイヤーズがドクター・イーブルとしてパロディ化したことからも伺える。それを今回はオスカー俳優クリストフ・ヴァルツが演じている。さすがの存在感を見せつけ健闘していると思った。
また、本作にはプロフェルドの部下で巨漢の殺し屋が登場してくる。こちらは元プロレスラーで
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」((2014米)等で筋肉系俳優として活躍するD・バウティスタが演じている。この役などはその不死身さからR・ムーア版ボンドの宿敵”ジョーズ”を連想させられた。
このように本作は過去作のオマージュがあちこちに散りばめられており、ある種原点回帰的な狙いで製作された作品であることがよく分かる。
アクションの切れも前作とは打って変わってかなり洗練されている。
特に、オープニングのメキシコシティを舞台にしたド派手なアクションには見入ってしまった。オープニングから1カット1シーンの技巧的なカメラワークが秀逸だ。O・ウェルズ監督、主演の
「黒い罠」(1958米)のオープニングシーンを彷彿とさせる刺激的な幕開けとなっている。
撮影監督は技巧派ホイテ・ヴァン・ホイテマ。
「インターステラー」(2014米)、
「ダンケルク」(2017米)、
「TENET テネット」(2020米)等、主にC・ノーラン監督とのコンビが多いが、前作「スカイフォール」のR・ディーキンスとはまた違った意味でのこだわりが感じられた。
アクション的な見所としては、他にカーアクションや雪山を舞台にした追跡劇なども用意されている。ハリウッド大作らしいボリューミーな内容は十分に満足のいくものなっている。
そして、シリーズのもう一つのお楽しみと言えばボンドガールである。今回は二人登場してくる。一人目は冒頭に登場した凶悪犯スキアラの未亡人ルチアを演じるM・ベルッチ。もう一人はプロフェルドを敵とする美女マドレーヌを演じるレア・セデゥである。両者ともそれぞれに個性を出しながら魅力的なヒロインを演じている。
このように前作「スカイフォール」とはかなり毛色の違った作品に仕上がっているが、ただ一つだけ共通するテーマがあって自分はそこに注目した。それはジェームズ・ボンドの出自である。
「スカイフォール」は彼の母親の秘密に迫ったドラマだった。そこが良くも悪くも異色作にしている最大の要因になっていたが、今回はボンドの父親の秘密を描くドラマになっている。ネタバレになるので詳しくは書かないが、おそらくこのアイディアは最初からあったのだろう。S・メンデス監督の中には、この両作品を姉妹作のような位置づけにすることで、ある種ボンドというキャラクターの掘り下げを試みたかったのではないかと想像する。