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竜とそばかすの姫

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「竜とそばかすの姫」(2021米)星3
ジャンルアニメ・ジャンルサスペンス・ジャンルファンタジー
(あらすじ)
 女子高生すずは、幼い頃に事故で母親を亡くし、それまで大好きだった歌を歌うことができなくなってしまった。ある日、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界“U(ユー)”にベルという名前で参加する。すずはそこで思う存分歌うことができ、瞬く間に歌姫として人気者になっていく。そんな彼女の前に“竜”と呼ばれる謎の存在が現れ…。

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(レビュー)
 心に傷を負った少女が仮想世界を通して本当の自分を取り戻していくアニメーション作品。

 監督、原作、脚本は細田守。
 仮想世界を舞台にした冒険ファンタジーのようなテイストの作品で、どことなく氏の「サマーウォーズ」(2009日)が連想された。
 ただ、本作はそう見せかけておいて、実はドラマの奥底には親子の絆、DV、ネットの闇といったヘビーな問題が隠されている。通り一辺倒なエンタメで終わるのではなく、しっかりとしたメッセージが感じられる作品だと感じた。

 「おおかみこどもの雨と雪」(2012日)以降、顕著にみられる傾向にあるが、ここ最近の細田作品は家族や親子関係をテーマにした作品が目立つ。本作もそうで、一見すると平凡な女子高生の”自立”を描くドラマに思えるが、物語の転換点、キーとなるのは後半で描かれる”竜”の正体にある。詳細は伏せるがそこには明確に”家族の在り方”というメッセージが込められているように思う。おそらく細田監督が最も描きたかったのはこの部分ではなかろうか。

 現に、物語後半を牽引するのは”竜”である。”竜”は一体誰なのか?すずはそれを突き止めるために”U”を奔走する。そして、母の喪失で植え付けられた彼女のトラウマは、この”竜”との関係から見事に漂白されるに至る。母の死をずっと受け入れられなかった彼女はその意味を知り、そして亡き母の”意志”を受け継ぎ心のわだかまりを解いていくのだ。物語の構成がよく出来ている。

 また、本作にはすずと幼馴染み、忍の淡い恋愛ドラマも語られている。いかにも思春期らしい清涼感に溢れた恋愛で、サイドストーリーとしては程よくまとまっていて微笑ましく観ることができた。ほかに同年代のクラスメイトとしてルカ、カミシンといったサブキャラも登場してくるが、これはすずと忍の恋愛ドラマを盛り上げるミスリードとしての役割を持たされており、人物配置の上手さが光る。

 よく出来ていると言えば、本作は映像も素晴らしい。緻密に描写された”U”の世界は3DCGにより実に美しく壮大に再現されている。アクションシーンもダイナミックで見応えがあった。

 加えて、本作の魅力に音楽も欠かせないだろう。
 すずを演じるのは声優初挑戦というミュージシャン中村佳穂という方である。恥ずかしながら自分は本作で初めて彼女のことを知ったが、中々どうして演技は等身大の女子高生ということを考えれば上手くハマっていた。本業である歌声に至っては作品の魅力に大いに貢献している。

 過去の細田作品では俳優を起用して失敗した例もある。「未来のミライ」(2018日)はそこが致命的であったが、本作ではそうした不自然な感じは受けなかった。

 映像や物語構成、テーマの抽出、キャスト等、全体的には上手く作られた作品だと思う。
 ただ、観終わって素直に感動できたかというと、正直な所今一つ乗り切れない部分もあった。特に、クライマックスにおける説得力を欠いた強引な展開が気になってしまった。盛り上げようというのは分かるのだが、いくら何でも展開が乱暴すぎる。

 また、細田監督が考える”家族の在り方”がやや保守的になってしまったという印象も持ってしまった。「おおかみこどもの雨と雪」ほど挑発的で野心的な試みがなく、実に凡庸な着地点に落ち着き、個人的には物足りなさも覚えてしまった。

 サブキャラの扱いについても、幾つか不満に残った。4人組のおばさんコーラスが登場してくるのだが、余り存在意義が感じられなかった。また、すずの父親については実に浅薄しか描かれておらす、もっと深みのある描写が欲しい所である。

 本来であれば傑作と表したいところであるが、このように細部にわたる詰めの甘さが惜しまれる。
[ 2021/10/04 00:18 ] ジャンルアニメ | TB(0) | CM(0)

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