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アイダよ、何処へ?

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「アイダよ、何処へ?」(2020ボスニアヘルツェゴビナオーストリアルーマニアオランダ独仏ノルウェートルコ)star4.gif
ジャンル戦争・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 ボスニア紛争末期の1995年7月、ムラディッチ将軍率いるセルビア人勢力が、国連が安全地帯に指定していたスレブレニツァへの侵攻を開始した。街を脱出した2万人の市民が国連施設に殺到する中、国連保護軍の通訳として働くアイダは夫と2人の息子を施設に避難させるために奔走する。

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(レビュー)
 ボスニア紛争で起こった”スレプレニツァ虐殺事件”を描いた実録戦争映画。

 恥ずかしながらこの映画を観るまで今回の事件のことをまったく知らなかった。無論ボスニア紛争自体は色々な映画を観て知っていたが、その中でこうした蛮行が行われていたことを初めて知った。

 ボスニア紛争はこれまでも何本か映画の題材になっている。ダニス・ダノヴィッチ監督作「ノーマンズ・ランド」(2001仏伊ベルギー英スロヴェニア)、マイケル・ウィンターボトム監督作「ウェルカム・トゥ・サラエボ」(1997英)。そして、本作の監督ヤスミラ・ジュバニッチの長編処女作「サラエボの花」(2006ボスニアヘルツェゴビナオーストリア独クロアチア)。いずれもこの内戦の理不尽さと悲惨さを訴えかけた問題意識の高い傑作だった。中でも、やはり「サラエボの花」は同じ監督という事でどうしても比較してしまいたくなる。

 「サラエボの花」は紛争後における戦災者たちの日常を哀切極まる、ある種人情話的なタッチで描いた佳作だった。戦場そのものを描かずに十分にその悲劇が伝わってくる作りは見事というほかなかったが、今回は戦場そのものに目を向けてこの紛争の実態に迫ろうとしている。

 街を追われた市民の必死のサバイバル、彼らを守ろうとする国連保護軍の立ち回り、傍若無人に振る舞うセルビア軍の侵攻。そういったものが現場目線で生々しく描かれている。「サラエボの花」とは違ったアプローチでこの紛争を描こうというシュバニッチ監督の意欲が画面からひしひしと伝わってきた。映画序盤から緊迫感溢れるタッチが持続し、最後まで息を呑む展開が続くので、観割った後には疲労感に襲われた。

 特に、ムラディッチ将軍率いるセルビア軍が国連施設に押し寄せてくる後半以降の展開は白眉である。窮地に立たされたアイダと家族たちの悲惨な姿に目が離せなかった。
 個人的にはルワンダの大量虐殺事件を描いた「ホテル・ルワンダ」(2004英伊南アフリカ)や「ルワンダの涙」(2005英独)を連想させられた。あの絶望感、切迫感に似た印象を持っ。

 ラストもズシリと心に響く幕引きとなっている。事件を生き延びた当事者の笑顔にホッと安堵する一方で、ふと伏せ目がちになる人々もいる。やはり心のどこかであの事件を忘れられずにいるのだろう。歴史は決して消すことができないと実感される。

 自分を含めこの虐殺事件を知らなかった人は多いと思う。遠く離れた国の出来事ゆえ、マスコミもそれほど大きく取り上げなかったので仕方がないことだと思う。しかし、本作を観て少しでも関心を寄せられたら、それはそれで本作が作られた意義もあろう。
 オスマン帝国によるアルメニア人虐殺を描いたアトム・エゴヤン監督作「アララトの聖母」(2002カナダ)、インドネシアにおける共産党員虐殺事件を追ったドキュメンタリー「アクト・オブ・キリング」(2012デンマークインドネシア英ノルウェー)等、知られざる戦災は世界中にまだまだ存在する。それを世に知らしめたという意味でも、本作は価値ある1本だと思う。

 一方、少し気になる点もあったので少し書き記しておきたい。
 映画のテーマそのものに直結するようなことはないのだが、幾つかの描写について若干の物足りなさを覚えた。

 まず、国連保護軍の描き方である。先に挙げた「ホテル・ルワンダ」や「ノーマンズ・ランド」然り。ここでも国連軍が余りにも情けない描かれ方をしている。こうしたことは今に始まったことではないのだが、ドラマとして見た場合、現場を監督する責任者である大佐に関してはもう少し人としての情けや葛藤があっても良かったのではないだろうか。確かに彼の苦しい胸の内は分かるが、サラリーマン的な対応に追われるばかりでキャラクター的な面白みが不足しているように感じた。

 もう一つはアイダの夫の描き方である。アイダが子供たちを守るために獅子奮迅の奔走を試みている間、彼は何一つ父親としての責を全うしようとしていない。確かに臆病な男だと自認しているくらいだから、この混乱した状況では何もできなかったのかもしれない。であるならば、父親としての情けなさを表すような内面描写は欲しい所である。彼に関するドラマが描写不足に思えてならなかったのは残念である。
[ 2021/10/15 00:42 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

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