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由宇子の天秤

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「由宇子の天秤」(2021日)star4.gif
ジャンルサスペンス・ジャンル社会派
(あらすじ)
 女子高生自殺事件の真相を追うドキュメンタリー・ディレクターの由宇子は、局の方針とぶつかりながら真実を追求すべく真摯な取材を続けていた。そんなある日、父が経営する学習塾の生徒から衝撃的な事実を告げられる。

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(レビュー)
 テレビ局のドキュメンタリー作家が真実を追求していく中で、自らの信念に揺らぎを感じていくサスペンスドラマ。

 物語は女子高生自殺事件のパートと、それを追いかけるドキュメンタリー作家由宇子の身の回りに起こる事件のパート。この二つが相関される形で構成されている。事件そのものに直接的な繋がりはないが、由宇子の葛藤を描く上で、この二つは深くリンクしている。

 まず、女子高生自殺事件の方は、女子高生が教師と肉体関係を持ったことを苦に自殺したという事件である。渦中の教師もすでに自死しており、由宇子は夫々の遺族に取材を敢行していく。二人を死に追い詰めたのは一体誰なのか?学校なのか?マスコミなのか?由宇子は事件の真相を究明していく。

 もう一つの事件は、由宇子のすぐ身近で起こる。彼女は父親が経営する学習塾を手伝っているのだが、その中の生徒の一人が妊娠したということが分かる。女子高生自殺事件を追いかける一方で、彼女はこちらの事件も追及していくことになる。

 本作はサスペンスとしての面白みもあるので、その詳細については伏せるが、由宇子はその真相を知り大きなショックを受ける。そして、これによって彼女自身の真実を追求するという作家としてのアイデンティティは揺らいでいくようになる。
 真実は時に誰かを不幸に陥れることがある、真実に目を瞑る方が世の中的には折り合いがつくという事を自認するのだ。

 本作が白眉なのは、これら二つの事件を描くにあたり、由宇子に”外”からの視点と”内”からの視点という二つの視点を内在させたところにあるように思う。

 一つ目の女子高生自殺事件は、由宇子は部外者であり”外”からの視点で取材しているわけだが、二つ目の生徒妊娠事件は彼女の身近で起こった事件ということで必然的に”内”からの視点で追及していくことになる。
 誰でもそうだが、身内で起こった不祥事には甘くなるものである。本来であればジャーナリストである由宇子は忖度なしで二つ目の事件も厳しく追及していくべきであるが、やはり一人の人間である。これを隠蔽しようと奔走するのだ。

  奇しくもこの二つの事件はよく似ている。夫々の”被害者”と”加害者”の関係性は、ほぼ一緒と言って良いだろう。女子高生自殺事件では容赦のない取材を敢行していた由宇子が、二つ目の事件では目を瞑ることで穏便に済ませようとするところに、由宇子のドキュメンタリー作家としての葛藤が透けて見える。

 監督、脚本、製作、編集は春本雄二郎。初見の監督だが、演出はドライで生々しい。まるでドキュメンタリーを観ているかのような緊張感が持続し、最後まで興味深く観ることができた。

 また、由宇子を演じた瀧内公美の好演も目が離せなかった。
 彼女の取材姿勢は常に妥協を許さない。例えば冒頭のシーンからもそれはよく分かる。自殺した女子高生の父親の吐露を執拗にカメラに収めようという姿は、マスコミの嫌らしさを表しているが、同時にそれは真実を捉えたいという彼女の信念の強さも表している。更には、テレビ局のプロデューサにも平然と食って掛かる姿には、一人のジャーナリストとしての、ある種の頼もしさが感じられた。彼女の強靭なメンタリティがこのストーリーをグイグイと牽引していることは間違いない。

 シナリオ上のサプライズも色々と用意されており全体的にはよく出来ている作品だと思うが、少し気になったシーンもあったので付記しておきたい。

 一つ目は途中から登場するドクターの造形である。車中での由宇子とのやり取りは少しキャラクターを作りすぎなような気がした。全体的にミニマルな演出が横溢しているのでやや浮いてしまっている印象を持った。
 もう一つはラストシーンである。妊娠した塾生の父親の行動がエキセントリックすぎる上に、その後の彼の行方がよく分からず気になってしまった。映画全体の締めとしては若干おさまりが悪い。

 尚、製作には「この世界の片隅に」(2016日)「マイマイ新子と千年の魔法」(2009日)で知られる片淵須直が名を連ねている。中々興味深い繋がりである。
[ 2021/10/28 00:37 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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