「エターナルズ」(2021米)
ジャンルSF・ジャンルアクション
(あらすじ) はるか昔から地球に存在し、7000年もの長きにわたって人知れず人類を見守ってきた不死の宇宙種族“エターナルズ”。現在は夫々に人間社会に溶け込みながら平和な日常を送っていた。その中の一人セルシはロンドンで高校教師をしていた。ある日、巨大地震が発生し、一度は殲滅したはずの敵ディヴィアンツの襲撃を受ける。かつての仲間イカリスが救援に駆け付けどうにか危機を乗り越えるが…。
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(レビュー) マーベルコミックの同名原作(未読)を映像化したSFアクション大作。製作会社マーベル・スタジオによれば「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019米)の直後の話で、彼らが考えるMCUシリーズのフェーズ4の始まりという位置づけになっている。
そもそも自分は「アベンジャーズ」シリーズは
第1作(2012米)と第2作
「エイジ・オブ・ウルトロン」(2015米)しか観ておらず「エンドゲーム」と「インフィニティ・ウォー」(2018米)は未見である。幾つか繋がりに不明な点はあったが、物語自体はこれまでの作品と関連性は少なく、エターナルズという新ヒーローが織りなす全くの新しいドラマになっている。MCUにドップリではない自分でも特に支障なく楽しむことができた。
それにしても今回の物語はかなり壮大である。映画冒頭でエターナルズの成り立ちが説明されるが、宇宙黎明の時代にまで遡るスケールのデカさに圧倒される。今回のヒーローチーム”エターナルズ”を作ったのはアリシェムと呼ばれる創造主で、これが物語の大きなカギを握っている。
物語は紀元前5000年と現代を股にかけた一大叙事詩で、時世のカットバックを駆使しながら流麗に展開されている。エターナルズのメンバーは10名で夫々に個性的な特殊能力を持っており、且つ性格もかなり色濃く味付けされていて造形がしっかりと確立されていて大変観やすかった。
先頃見た
「ザ・スーサイド・スクワッド”極”悪党、集結」(2021米)も大所帯のスーパーヒーロー物だったが、群像劇という観点でみれば今作の方が巧妙に作られていると思った。友情、衝突、恋愛を通じて固い絆で結ばれていくという所は一緒なのだが、本作は個々のキャラクターの掘り下げがうまくいっている。逆に言うと、人物描写に重きを置いたせいで、アクションシーンは必要最小限に抑えられている。無論一つ一つのアクションシーンは天下のマーベル・スタジオなので期待を裏切らない出来である。しかし、これまでのMCU作品とは鑑賞感はやや異なるものとなっている。
監督、共同脚本は前作
「ノマドランド」(2020米)で一躍その名を世界中に轟かせたクロエ・ジャオ。この特異な作りは明らかに彼女の作家性からきているものだと思う。一人一人のキャラクターに見せ場を用意しつつ、それがアクションシーンのみならずドラマそのものを牽引するという、いわゆる大味な作品とは一線を画す非常に丁寧な作りになっていて感心させられた。
基本的に物語は人類を救済するかどうかという一点で進行するのだが、その傍らではセルシとイカリスの恋愛が語られ、それ以外にも数本のドラマが並列されている。
例えば、セルシとイカリスの関係に絡んで描かれるスプライトの葛藤は中々面白い。見ようによっては単純な嫉妬とも取れるが、しかしそれは表面的なことに過ぎず本当は彼女は人間という存在その物に嫉妬していたのかもしれない。劇中にチラッとできてきた”ピーターパン”の物語になぞらえてみると面白く読み解ける。
また、ドルイグとファストス、マッカリたちの人類に対する考え方は夫々に微妙に異なる。これも注意深く観ていると面白い。
セナとギルガメッシュの関係は、言ってしまえば非常に浪花節的なのだが中々泣かせるものがあった。
本作は2時間半強という長尺だが、その長さを感じさせないで観れたのは、こうした各キャラの心情を丁寧に救い上げた脚本のおかげだろう。本作におけるクロエ・ジャオの功績は大きいように思う。
もっとも、終盤に行くにつれて展開が性急になってしまった感は否めず、そこは心残りだった。各キャラが戦いの中で心情を変化させていくのだが、それらがすべからく軽く映ってしまった。特に、最後のイカリスの心変わりは今一つ納得できない。もっとじっくりと描いて欲しい気がした。
他にも気になる点があった。ネタバレを避けるが、ファストスの悔恨を描くシーンは日本人としては非常に重要なシーンで、これを堂々と描いたことは称賛したい。しかし、あのシチュエーションはやはりどうしても解せないものがある。
キャスト陣は夫々に個性的な布陣で固められており良かったと思う。白人だけでなく多彩な有色人種を配することでバラエティに富んだキャスティングとなっている。最近のハリウッドは多様性を尊重する傾向にある。そのことが本作からも伺えた。
尚、エンドロール後におまけが付いているので最後まで席を立たずに鑑賞しよう。続編の可能性が示唆されている。