「ラブリーボーン」(2009米英ニュージーランド)
ジャンルファンタジー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 14歳の少女スージーは、優しい両親とかわいい妹弟に囲まれながら幸せな日々を送っていた。初恋の予感に胸をときめかせていたある日、近所の男に無慈悲に殺されてしまう。天国と思しき地で、彼女は残された家族の姿や逃げ延びた犯人のその後を目撃していくようになる。
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(レビュー) 不幸な死を遂げた少女の数奇な運命をファンタジックに描いたサスペンス作品。
原作は同名のベストセラーで、それを「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを成功させたピーター・ジャクソンが最先端の映像技術で映像化した作品である。
本作は何と言ってもCGで表現された天国の世界が素晴らしい。温もりに満ちたカラフルな世界観が、悲惨な死を遂げたスージーの魂を癒しているかのようだ。ドラマ自体は実に陰惨だが、この辺りの陰と陽のコントラストが作品を味わい深くしている。
くしくも同じピーター・ジャクソン監督の「乙女の祈り」(1994米ニュージーランド)を連想した。「乙女の祈り」もドラマ自体は非常に陰惨だったが、映像は時にクールで瑞々しいトーンが横溢し、ある種少女趣味的なカラーをも匂わせ、鑑賞感は余り嫌な感じがしなかった。本作と「乙女の祈り」は作品全体に漂うトーンに違いはあるものの、ドラマ的な部分では大変似ていると思った。
物語は、魂になったスージーのエピソードと、彼女に先立たれた家族のエピソードを交互に描く構成になっている。その中で物語を盛り上げる要素としてスージーを殺害した犯人探しのサスペンスが用意されている。
ただ、犯人は最初から正体が明らかにされているため謎解きとしての楽しみ方は期待できない。犯人はスージーの家のすぐ近所の男なのだ。ありがちな話であるが、逆に言うと犯人の正体があらかじめ分かっていることで、例えば家族の身に危険が及ぶといったサスペンスフルな展開は上手く描けていると思った。
また、スージーの父親が犯人探しに没頭するあまり家族から見放され徐々に自暴自棄になっていく、という転落のドラマも用意されている。すぐそばに犯人がいるのに捕まらないという歯がゆい状況。そしてバラバラになっていく家族の姿を、スージーは天国から見守ることしかできずその胸中を察すると実に不憫極まりない。
このように話の筋書きだけ追っていくと非常に悲惨な物語なので、好き嫌いがハッキリわかれる作品だと思う。
ただ、先述したようにスージーがいる天国の映像が非常に美しいのであまり陰惨さは感じられない。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを手掛けたジャクソン監督にしては、ダークファンタジーというわけでもなく、これはこれで少し中途半端な感じも受けた。余りにも煌びやかに輝く天国の映像が、かえってスージーの悲しみや苦しみを薄みにしてしまった感じがする。
スージー役は、今やハリウッドを代表する若手女優シアーシャ・ローナン。初々しくあどけなさが残る顔立ちで薄幸の美少女役には上手くはまっていた。