「イエスタデイ」(2019英)
ジャンルファンタジー・ジャンル人間ドラマ・ジャンル音楽
(あらすじ) 売れないミュージシャン、ジャックは幼なじみのマネージャー、エリーといつか大舞台で立つ日を夢見ながら場末のクラブで演奏していた。ある夜、世界規模で12秒間の大停電が起きる。その瞬間、交通事故に遭ったジャックは、ビートルズの存在しない世界に飛ばされてしまった。彼はそこでビートルズの曲を奏でながら瞬く間に人気者になっていくのだが…。
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(レビュー) ビートルスの存在しない世界に飛ばされた売れないミュージシャンの悲喜こもごもをユーモアを交えて描いたハートフル・ファンタジー。
監督は
「スラムドック$ミリオネア」(2008英米)、
「127時間」(2010米英)、
「T2 トレインスポッティング」(2017英)のダニー・ボイル。スタイリッシュな映像と軽快なテンポで見せる話運びが特徴の監督であるが、その資質は本作でも存分に発揮されている。最後まで飽きなく観れた。
共同原案・脚本にはリチャード・カーティスがクレジットされている。こちらは「ノッティングフィルの恋人」(1999米)や「ブリジット・ジョーンズの日記」(2001米英)、「ラブ・アクチュアリー」(2003英米)といった洒落たラブコメを得意とする作家である。非常に手練れたベテラン・ライターで、今回はファンタジックな要素を盛り込みながらジャックとエリ―の恋の行方を軽妙に料理している。
ただ、これはシナリオの問題かもしれないが、二人の破局→復縁の流れが余りにも安易で、恋愛ドラマとしては個人的には乗り切れなかった。
そもそもエリーがジャックにそこまで惹かれる理由がよく分からなかった。ジャックは容姿はそれほど良くないし人間的な魅力も余り感じられない。大体によって他人の曲で売れようという姑息な考えが自分には好きになれなかった。そんな彼のどこにエリーは惹かれたのだろうか?
また、この物語には大きな欠陥があるように思う。それはビートルスのいない世界というパラレルワールドの話だけで終始してしまったという点だ。
ビートルズの曲で売れたジャックが自戒するのはドラマの流れとして当然と思うが、それはあくまでパラレルワールドの中での話である。映画はそのまま完結してしまっており、元の世界がどうなったのか分からずじまいである。最後にジャックが現実世界に目を向けることでこのドラマはしっかりと完結すると思うのだが、そうすることなく物語は安易に夢想の中で埋没してしまっている。自分にはこれが非常に違和感を持った。
音楽については良かったと思う。馴染みのあるビートルズの名曲が次々と流れてくるので親しみが湧いた。
個人的にはビートルズのいない世界にはオアシスもいないというのが洒落が効いていて面白いと思った。オアシス自体、決してビートルズの影響下にあるバンドではなかったが、世間が両バンドを比較していたことは事実である。
キャストではジャック役にアフリカ系の俳優を起用している。飄々とした演技は中々上手かったが、有色人種である必然性がドラマ上、余り感じられなかったのは残念である。白人の音楽をアフリカ系俳優が歌うという所の面白さを狙ったのだろうか?だとすると製作サイドの考えは浅薄すぎる。ドラマ上の必然性が欲しかった。
尚、ミュージシャンのエド・シーランが本人役として登場してきたり、終盤にはアッと驚く人物(ノンクレジット)も登場してきてゲスト陣は豪華で良かったと思う。