「黒衣の刺客」(2015台湾)
ジャンルアクション・ジャンルロマンス
(あらすじ) 唐代の中国。幼き頃より女道士のもとで刺客になるべく育てられた隠娘(インニャン)は、13年後、両親のもとに帰ってくる。彼女に課された使命は、暴君の田季安(ティエン・ジィアン)を暗殺することだった。しかし、標的である田季安はかつての許婚でもあった。
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(レビュー) 暗殺者として育てられたヒロインが呪われし運命に翻弄されていく武侠映画。
ドラマ自体はいたってストレートである。しかし、人間関係が複雑に入り組んでいるため、やや分かりづらい面があった。あらかじめ歴史的な設定を頭に入れてから見たほうが理解しやすいだろう。
監督は台湾の巨匠ホウ・シャオシェン。シャオシェンと言えば、ミニマルで静謐な作風が特徴の作家であるが、それがこうしたジャンル映画を撮ることは大変意外である。
かつてアン・リーが「グリーン・デスティーニー」(2000米中国)を撮り、チャン・イーモウが「HERO」(2002香港中国)を撮り、ヒューマンドラマの作家というイメージを払拭した時期があった。その後もアン・リーは「ハルク」(2003米)や「ジェミニマン」(2019米)を、チャン・イーモウは「LOVERS」(2004中)や「グレートウォール」(2016中国米)といった大作を立て続けに作り、今やハリウッドで活躍する職人監督になった。中には興行的に失敗した作品もあるが、初期時代の作風を一新した感がある。そういう意味ではアン・リーもチャン・イーモウも大変器用な作家だと言える。
それに対してホウ・シャオシェンはどうかと言うと、これはあくまで個人的な感想だが、彼らとは少し違うような気がした。本作は確かに武侠映画のジャンルに括れる作品だが、同時に苦悩するヒロインの心中に迫った骨太なロマンス作品でもある。おそらくシャオシェンはそちらの方を描きたくて本作を撮ったのではないだろうか?
ただ、アクション演出はお世辞にも上手く出来ているとは言い難い。先述した2名の監督たちは周囲でサポートするスタッフに恵まれたのかもしれないが、夫々にアクションシーンは板についていた。彼らに比べると、シャオシェンが描くアクションは今一つキレが足りない。
一方、映像はすべからく完成度が高く、鮮やかな色彩設計、深みのある陰影等、大いに見応えがあった。
撮影監督は名手リー・ピンビン。数々の作品で素晴らしい映像美を創出してきた氏の真骨頂がここでも存分に堪能できる。
また、奥行きを意識した室内構図、部屋の奥で風に揺らぐ透明なカーテン、蝋燭の火に照らされたロウキーな画面等。プロダクションデザインの仕事ぶりも随所に光っていた。
尚、キャストで日本人俳優の妻夫木聡と忽那汐里が出演している。妻夫木聡は傷ついたインニャンを助ける鏡磨きの青年としてキーパーソン的な役回りを任されている。中々美味しい役所だった。