「コレクティブ 国家の嘘」(2019ルーマニアルクセンブルグ独)
ジャンル社会派・ジャンルドキュメンタリー
(あらすじ) 2015年10月30日、ルーマニアのライブハウス“コレクティブ”で火災が発生し、死者27名、負傷者180名を出す大惨事となる。その後、入院した患者が次々と命を落とし更に37名の生命が失われた。不審に思った新聞記者トロンタンが調査を開始する。
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(レビュー) 政府と医療機関の腐敗を暴いた社会派ドキュメンタリー。
どこの国でもこうした権力機構の腐敗はあると思う。要はそれが表に出るか出ないかだけであって、報道する側の姿勢がいかに重要であるか…ということが痛感させられる。
本作に登場する地元スポーツ紙の記者トロンタンが実に頼もしく感じられた。権力を恐れず果敢に事件の真相を追求していく姿を見ると、果たして我が国には彼ほど情熱に満ちたジャーナリストはどれほどいるだろうか…と思ってしまう。
映画前半はトロンタンの取材活動を追いながら、なぜ入院患者が次々と亡くならなければならなかったのか。その原因が追究されていく。
後半からは視点をガラリと変え、事件を調査する保健相の新人大臣ヴラドを中心に描かれていく。事件を引き起こしたのは腐敗した医療制度と汚職にまみれた政治にあると確信した彼は、政府内部から改善を訴える。しかし、官僚の厚い壁に阻まれて中々思うようにいかない。
個人的には、製薬会社社長の謎の事故死を含め、前半の方がサスペンスフルで面白く観れた。語弊はあるかもしれないがエンタテインメント性に溢れている。
一方、後半はひたすら歯がゆい展開が続くためやや退屈してしまった。
ただ、今回の事件を捉える上で、報道記者という外部からの視点と政治家という内部からの視点、この二つの視点を交錯させたやり方は中々面白い試みだと思った。結果、作品の視野は広がったように思う。
ラストの何ともやりきれないオチが印象に残った。
結局、腐敗した政治を正すのは選挙権を持つ我々国民だけである。そんなメッセージが感じ取れた。
至極当たり前のことを言っているように思えるが、しかしそれを分かっていない人がなんと多いことか。それは選挙民の投票率の低さにも表れている。わが国同様、ルーマニアでもこのことは問題になっているらしい。これは極めて嘆かわしい状況だ。
どうせ誰が政治をしても変わらないという人々の無関心。今回のような悲劇的事件が起きても所詮は他人事でしかないという無頓着さ。まずはそうした意識から変えなければダメだろう。
再三途中で挿入される火傷を負った女性ダンサーの姿も印象に残った。特にこれがなくても映画としてはきちんと成立させることができるのだが、彼女の姿が硬派な作風に一種独特のアーティスティックな風情を持ち込んでおり中々面白いアクセントになっている。彼女の活動は、悲壮感に満ちた状況の中でほのかな希望に感じられた。