「MONOS 猿と呼ばれし者たち」(2019コロンビアアルゼンチンオランダ独スウェーデンウルグアイスイスデンマーク)
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ) 南米の山岳地帯で、ゲリラ組織に所属する「モノス(コードネーム猿)」と呼ばれる少年少女兵が訓練をしていた。そこにアメリカ人女性が人質としてやってくる。彼らは彼女の身柄を監視することになるのだが…。
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(レビュー) 少年少女兵士の過酷な運命を異様な雰囲気で綴った寓話的作品。
学生運動の崩壊を描いた数々の作品。例えば、若松孝二監督の
「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(2007日)や、見世物趣味的な怪作とも言える熊切和嘉監督の大学時代の卒業作品
「鬼畜大宴会」(1997日)、学生運動を俯瞰的視点で描いた高橋伴明監督の
「光る雨」(2001日)といった作品を本作を観て連想した。
当時の学生たちが信念に基づいた戦いをしていたことは確かだろう。しかし、中には自らの意志とは裏腹に単なるブームに流されてしまった者たちがいたことも確かだと思う。一見して統率がとれているように見えた組織も、些細なきっかけで内部分裂を起こし、やがて運動そのものが空中崩壊してしまったことは歴史が証明している。
ここで描かれる「モノス(猿)」と呼ばれる少年少女の兵士たちも、正にそのような運命を辿っていったような気がした。
観てて非常に辛い映画である。彼らがどういう経緯でゲリラ組織に入ったのか分からないが、おそらく物語の舞台となっているであろうコロンビアという土地を考えた場合、何となく想像ができる。
コロンビアでは半世紀以上内戦状態が続き、その結果幾つものマフィアが誕生し、麻薬と暴力の世界が蔓延した。安全な市民生活は脅かされ、そんな環境で育った子供たちがどうなるか?大体は察しが付くだろう。おそらくここで描かれる「モノス」のようなゲリラ兵になり果ててしまう。
そんな殺伐とした「モノス」の若者たちであるが、時折年相応の少年少女の顔を見せることがある。無邪気にじゃれ合ったり、ゲームに興じたり、恋愛や嫉妬もする。過酷な戦場で育まれる彼らのやり取りは微笑ましいものに感じられた。
ただ、そういったシーンは極わずかで、基本的には厳しい訓練風景や仲間内で起きる軋轢、命がけのサバイバルが大半を占める。
物語は、序盤から”ある事件”が起こり若者たちは窮地に立たされてしまう。すでにこの時点でかなりスリリングなのだが、後半から舞台を山岳地帯からジャングルへと移し、更に「モノス」のメンバーと人質となったアメリカ人女性の運命が文字通り”泥臭く”描かれていく。
何と言っても印象に残るのは、前半の山岳地帯のロケーションである。これがこの物語をどこかこの世の物とは思えないモノに見せている。特に一番驚いたのが高山にそびえたつ巨大な建造物である。非常に神秘的なオブジェで素晴らしい。
音楽はかなりアバンギャルドとも言えるが、作品全体に緊張感をもたらすという意味では効果的で、これも印象的だった。
監督・原案・共同脚本はアレハンドロ・ランデス。初見の監督だが、フィルモグラフォーによると本作が長編監督2作目ということである。元々はドキュメンタリーを撮っていた人らしく、本作を観るとその作家的資質も良く出ていると思った。
とにかくガチンコ勝負の映像が多く、きっとこの監督はCGやフェイクでごまかしたりするのがあまり好きではないのだろう。どのシーンも生々しさと活力に溢れていて、かなりシビアな演出をしているように見えた。
その一方で、雄大な自然を捉えた映像、祝祭感に満ちた色彩等にはアーティスティックな感性も伺わせ、実にユニークな才能に溢れた監督だと思った。
物語も最後まで先が読めない展開で面白かった。基本的に本作には主人公と呼べる者はおらず、「モノス」というチームそのものが主役となっている。それでもメンバーそれぞれの個性が描かれているので、決して退屈することなく最後までスリリングに観ることができた。
ラストの締めくくり方も余韻を残した終わり方で印象深い。果たして誰が生き残り、誰が死んだのか?そして生き残った者たちのその後はどうなったのか?そうした事柄を全て放り出した結末は賛否あるかもしれないが、そこを想像するのも映画の楽しみ方である。映画を観終わって色々と考えさせられた。