「SF核戦争後の未来・スレッズ」(1984英)
ジャンルSF・ジャンル戦争・ジャンル社会派
(あらすじ) 東西冷戦の真っただ中、イギリスのシェフィールドに住む若いカップル、ルースとジミーは結婚を控え幸福の最中に居た。ある日、ペルシア湾でアメリカの原潜が行方不明になる。その後、同海域で米ソ両軍艦の衝突事故が起こり、両国の武力行使が現実味を帯びたものになっていく。
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(レビュー) イギリスのBBC製作による冷戦時代を証憑した核戦争シミュレーション作品。
同じ題材を扱った作品で、アメリカでは「ザ・デイ・アフター」(1984米)というテレビムービーが製作されている。当時はそういった不安が社会全般に漂っていたのだろう。ただ「ザ・デイ・アフター」に比べると、こちらの方が断然リアリティがあるし恐ろしい。
物語は一組の若いカップルとその家族の目線で進行する。ルースとジミーは、ルースの妊娠をきっかけに結婚を決意する。新居も決まり両家の挨拶も済ませ、いよいよ結婚という時になって、アメリカとソ連の全面戦争が始まってしまう。
この作品で巧妙だと思うのは、開戦に至る経緯を実に細かく段階を踏んで描いている点だ。実際の戦場は一切出てこない代わりに、テレビやラジオ、新聞といったメディアから両国間の軍事衝突、外交戦略が事細かく説明される。
なんでも本作を製作するにあたり、BBCは軍事専門家やアナリストなど50名以上の助言を受けたそうである(
wiki参照)。そのかいあって本作は真に迫ったリアリズムが感じられる。
両国の全面戦争が始まると、当然アメリカの同盟国であるイギリスも無事では済まされない。国中がパニックに陥り、人々は自宅にシェルターを作り、田舎に疎開する。そして街からは物資が消え、道路は公用車優先のために封鎖され、公的機関ではストライキが始まる。更に、銀行は閉鎖され、美術館からは粛々と美術品が安全な場所へと移動させられる。
そして、ついに恐れていた最悪の事態が起こってしまう。NATOの軍事基地にソ連の核爆弾が投下されてしまうのだ。すぐ近くに住んでいるルースたちも、当然甚大な被害を受けてしまう。
恐ろしいことに、最初の米軍原潜沈没からここに至るまでたったの2カ月である。
ここから映画はルースたち市井の視線を離れて、支庁の地下シェルターに集まった対策本部の人々の視線も交えて描かれていく。更にナレーションも交えながら、より一層ドキュメンタリー風味を増した形で焼け野原になった街の風景や焼け焦げた死体などが映し出されていく。
我が国は世界で唯一の被爆国である。広島と長崎に投下された原爆の被害は、我々日本人からしてみれば身近な悲劇として受け止められるが、その悲劇を海外でここまで詳細に描いた作品は中々ないのではないだろうか。
ひたすら残酷な映像と陰鬱な展開が続くし、ラストも救いがないまま終わるので、好き嫌いがハッキリと別れる作品だと思う。しかし、ここまで真に迫ったシミュレーション作品もそうそうないと思う。一見の価値がある作品であることは間違いない。