「斬、」(2018日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 江戸時代末期。杢之進は食うために藩を離れ、農村で農家の手伝いをしながら糊口を凌いでいた。そんなある日、剣の達人である澤村が村にやって来る。彼は仲間を集めて京都の動乱へ参加しようとしていた。杢之進は澤村に剣の腕を見込まれ一緒に行こうと誘われるのだが…。
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(レビュー) 「鉄男 TETSUO」(1989日)や
「野火」(2014日)の塚本晋也監督が、自ら製作を務めて撮り上げた作品。氏にとっては初の時代劇となる。
とはいえ、セリフは現代語であるし、映像もツルツルとしたデジタルビデオ撮影なので余り時代劇っぽくない作品である。敢えてそうしているのかどうか分からないが、せっかくの時代劇であるのだからセリフくらいは文語調でも良かったのではないかと思った。
物語はシンプルである。平穏な日々に生きる道を見つけた若い侍が、剣の達人に出会うことで再び戦いに身を投じて行く…というドラマである。
興味深いのは、本作が同監督の前作「野火」と非常に近いメッセージ性を放っているという点である。
「野火」は明確な反戦映画になっていたわけだが、本作にもそれは通ずる。時代劇というスタイルをとっているものの根っこの部分ではやはり本作も反戦映画になっていると思った。戦いが嫌で藩を出た杢之進が澤村に強引に戦いに連れ戻される…という物語の構図からして、それはよく分かる。これはまるで戦時下における徴兵制のようである。ここに戦争の恐ろしさ、無意味さが強く感じられた。「野火」も戦争の恐ろしさ、理不尽さを説いており基本的には同じメッセージが読み解ける。
塚本監督の演出はアクションシーンにこそ本領を発揮する。本作でも何度か斬りあいのシーンが登場してくるが、相変わらずエクストリームっぷりを見せつけている。余りにも戯画調なハッタリゆえ、苦笑してしまう部分もあるのだが、やはりバイオレンスを”見世物”として描かせたらこの人の右に出る者はいないだろう。これぞ塚本作品の醍醐味である。
また、本作は音響もかなり凝っており、鞘から刀が抜かれる時の音や刀がぶつかり合う瞬間の音など、これまで観てきた時代劇にはない音の設計が図られていた。今回はテレビでの鑑賞だったが、映画館ではさぞ迫力のある音が味わえただろうと、少し後悔してしまった。出来れば劇場で体験したかった。
キャストでは、杢之進を演じた池松壮亮の浪人っぷりが板についていて中々に良かった。これまでは現代劇のイメージしかなかったので新たな魅力を発見した次第である。
一方、杢之進に恋する若い女性ゆう役を演じた蒼井優は、上手い所はものすごく上手いのだが、演技のトーンが一定しないのが惜しまれた。実は、
「スパイの妻<劇場版>」(2019日)でも同様のことは感じられた。ここまでくるとおそらく監督の演出云々ではないのだと思う。