「瞼の母」(1962日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 幼い頃に母と生き別れになった番場の忠太郎は、母を求めて二十年間、博徒として旅を続けていた。ある日、弟分の半次郎を逃がすために飯岡一家を斬ってしまう忠太郎。その後、追われる身となって江戸に流れ着くのだが…。
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(レビュー) 長谷川伸の同名戯曲を映画化した人情ドラマ。
原作は浪曲や歌謡曲、テレビ、映画で何度も映像化されている名作である。
今回は娯楽映画の名手加藤泰が監督、脚本を務め、中村錦之助が忠太郎を演じ、非常に熱度の高い佳作に仕上がっている。
ストーリーはお馴染みの物である。特に捻りはないが安定した人情物で、娯楽作として誰でも楽しめる内容となっている。
特筆すべきは、やはり加藤泰の演出の妙である。
クライマックスにおける母子の別れのシーンは実に味わい深い。生き別れの母おはまが去っていく忠太郎を追いかけようとして湯呑茶碗を倒してしまうシーン。ハッと我に帰り茶碗が転がった畳をそっと撫で、今しがたまで座っていた忠太郎の温もりを確かめるようなしぐさは秀逸である。
また、本作には印象的な長回しが幾つか登場する。
例えば、忠太郎が盲目の老婆に母の行方を尋ねるシーン。ここでのやり取りはカットを切らずに1シーン1カットで描いて見せている。果たしてドラマ上、ここまで長くする必要はあったのかどうかは分からないが非常に印象に残る。
あるいは、忠太郎とおはまが再会するシーンも忘れがたい。二人のやり取りを延々と1カットで切り取っている。夫々の戸惑い、興奮が直に伝わってきて非常に臨場感溢れる名シーンとなっている。
元々が戯曲ということもあり、加藤泰はこうした長回しを意図的に用いたのだろう。その要望に応えたキャストの力量も素晴らしい。
忠太郎を演じる中村錦之助は言わずと知れた東映の看板スターで、コッテリ系の芝居が大衆の琴線を突いてくる。
おはまを演じるのは小暮実千代。ドラマ上、後半からの出演となるが、初期の松竹時代から人気女優として活躍しているだけあって安定した演技を見せている。