「心の指紋」(1996米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 妻子と幸せな生活を送る医師マイケルは、末期ガンを宣告された強盗殺人犯の少年ブルーの診察にあたる。ところが、ブルーはマイケルを人質に取って脱走する。インディアンに伝わる伝説の聖なる山にはどんな病気でも治せる湖があるという。それを信じるブルーはマイケルを連れて逃亡の旅に出るのだが…。
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(レビュー) 真面目な医師と継父殺しの少年の奇妙な友情を広大なロケーションと共に描いたロード・ムービー。
「ディア・ハンター」(1978米)、「サンダーボルト」(1984米)等で知られるマイケル・チミノ監督の遺作。
どちらかと言うと大作志向の強い作家であるが、本作は珍しく小規模な作品となっている。他の作品に比べると地味な印象は拭えないが中々の佳作になっていると思う。
まずマイケルとブルーのキャラクターギャップが物語を面白く見せている。裕福な白人医師と貧乏な先住民の混血少年、命を救う者と命を奪った者。年齢も出自も異なる二人の旅が味わい深く描かれている。
その中で、マイケルはブルーに感化される形で徐々に本人の中に眠る暴力性を目覚めさせていく。一方のブルーはマイケルの看護を受けながら徐々にそれまでの凶暴性を沈めていくようになる。夫々の内面の変化が非常に面白く観れる。
また、一見すると殺伐としたロード・ムービーに思えるが、二人のやり取りは時にユーモアを交えながら描かれており、最後まで飽きなく観ることが出来た。例えば、赤ん坊の前で平気でタバコを吸う女との口論、ブルーのためにマイケルがドラッグストアで強盗するシーンなどは大変可笑しかった。
ただ、所々で強引な展開も目につく。
例えば、末期がん患者であるブルーが元気に駆け回るのは流石に無理があるし、そもそも伝説の聖なる山があるという噂を簡単に信じ込んでしまうのは普通の感覚とは思えない。二人の逃亡をマスコミが大騒ぎで報道する割に警察の追跡がほとんど出てこないのも不自然に思えた。後半はかなりスピリチュアルな展開に没入していくのも、この物語をどこまで信用して観ていいのか分からない部分がある。
マイケル・チミノの演出も今回は少々雑である。
例えば、バーで地元客と喧嘩になるシーンがある。マイケルが袋叩きにあうのだが、それを一旦見捨てたはずのブルーが戻って救出する。一体なぜ戻ったのか?その心境変化が今一つ理解できなかった。ここは最初から二人一緒に逃げても良かったのではないだろうか。
ブルーの鼻血がカットによって出ていたり出ていなかったりするのも明らかな編集ミスである。
他に、鷹のアニメーションの合成がチープだったり、BGMが映像に合ってるとは言い難い個所があったり、諸々乗れない部分があった。
ドラマ自体はとても良質だと思うが、演出やシナリオの細かな部分で作品としての完成度を下げてしまった感じがする。
ただ、これらの不満を凌駕してしまうシーンも確実にあって、それがあることで本作はどうしても捨て置けない作品になっている。
それはマイケルの幼い頃のトラウマが明らかにされる中盤のシーンである。そのトラウマはブルーと一緒に旅をすることで払拭されていくのだが、これが実に良い。本作はブルーの魂の救済のドラマであると同時に、実はマイケルの心の咎を浄化するドラマでもあった…ということに気付かされ、そこには感動してしまう。
キャストでは、マイケルを演じたウディ・ハレルソン、ブルーを演じたジョン・セダ、共に見事な熱演を披露している。